複雑・ファジー小説

Re: 青恋物語【キャラ募集一時停止、題名変更】 ( No.25 )
日時: 2015/11/29 16:03
名前: キコリ (ID: JD5DDSYn)

 さて、特に大きな問題もなく合コンは最終局面を迎えようとしていた。晩飯ついでに、とある小さな焼き鳥屋で宴会じみたことをやろうという話が出たため、今まさに焼き鳥を頬張っている最中なのである。
 でもって何となく予想はしていたのだが、馬鹿な連中が集まってるものだから本当に酒を呷り始める奴が出てきた。
「ほら立花も飲めって!」
「いらねぇっての」
 最終的には大半がビールだのカクテルだのを飲んでおり、今や酒が入っていないのは俺と寺田と柊だけだ。
「柊さんも飲もうぜ」
「ごめん、お酒弱いんだ」
 弱い——って、飲んだことあるのか。
「寺田ァ! オメーも飲め!」
「いやいや、こういうときは誰かしっかりしてないとダメだろ?」
「立花がいるから大丈夫だって!」
「——じゃ、じゃあ」
 寺田が、酒を頼もうとしている!?
「止せ寺田! 理性を保て!」
「はっ!」
 未成年とはいえ大人に近い身体なので、普段から酒を飲んでるならある程度は耐性が付くと聞く。まるでどこぞの副会長みたいに。だが、未だ飲んだことがないならばやめたほうが良い。一番多い急性アルコール中毒の事件と言えば、こういった宴の時間に飲酒経験のない者が調子に乗って——という場合が一番多いらしいからだ。
 寺田は何だかんだで俺の大事な友達だから、まだ死んでほしくないわけで。俺は必至に止めるのだった。
 やがて——


    ◇  ◇  ◇


「なんか、ちょっと楽しかったかも」
「だな。服がすんげぇ酒臭いけどな」
「あはは、そうだね。帰ったら自分で洗濯しなきゃ」
 酔い潰れた人などが出てきた理由から、今日の合コンはお開きとなった。
 諦めが付いたらしい寺田といえば、もう帰ったのかここにはいない。
 二次会みたいな感じで、まだ元気な奴らは他の店を探しに行ったが、俺と柊は参加を拒否した上で公園まで来ていた。
 時刻は19時。まだ早いが、流石は冬か。すっかり日が暮れてしまい、辺りは街灯の下のみが明るく照っている。
「——ねぇ、まだ時間ある?」
「あぁ、あるよ」
「じゃあさ、プチデートでもしない?」
「は?」
 俺は一瞬きょとんとした。
「よく考えたらさ、今日って2人だけの時間なかったでしょ? 折角クリスマスなんだし、町まで繰り出そうよ」
「——あいよ」
 どうせ暇だ。ならばとことんまで付き合ってやるのが、礼儀みたいなものだろう。
 そうして俺達は近くの繁華街までやってきた。

「おぉ」
 着くなり、思わず感嘆の声を漏らす。
 繁華街なだけあって、完全にクリスマスムードだ。大型のアーケードの中央まで来ると、巨大なモミの木が豪華な装飾に身を包んでおり、より一層その雰囲気を強めている。
 あと定番——というよりは回避出来ない事柄なのだろうが、やたらカップルが多い。それもかなりアツアツな組み合わせだ。きっと俺らも恋愛関係と見られているかもしれないが、俺らほど冷え切った空気が他にない所為で若干浮いているような気がしてならない。
 ——否、逆に周囲が熱すぎるだけと見た。
 プレゼント交換だの手を繋ぐだの、キスだのハグだの何だのと。何らかの形で"触れ合っている"人が多い傍ら、俺と柊は何もしていない。ただ並んで歩いているだけである。
 それは別に羨ましいというわけではないが、何処と無く寂しさがある。
「……」
 隣には柊。別に店を探す様子もなく、ただ俺とアーケードの真ん中を歩いているだけだ。
 その時——
「?」
「……」
 柊の足が止まった。どうしたんだろうと視線を追ってみると、そこには若いオシドリ夫婦の間ではしゃぐ2人の子供——という、ありがちでも心の温まる家族。
「っ……」
「?」
 幸せそうだなと、俺はその家族を見ていたのだが。

 ふと柊を見ると、彼女は目から雫を——涙を流していた。

「柊?」
「っ!」
 我に返るなり、急いで目を拭う柊である。
「な、なんでもない。いこっか」
「——嘘だな」
「……」
 不幸など何処にもなさそうな家族を見て、哀しみを以って涙を流す奴なんてそうはいない。
 中二的な発言になるが、普通は何か暗い過去を背負った人しかその対象にならないだろうし。
「なんでもないって言ってるじゃん」
「じゃあ何で泣いてたんだ? あの家族、どこか不幸に見えたか?」
「……」
 言葉を待つという意味で、しばらく沈黙が流れた後。
「ちょっ、おい……」
 柊は黙ったまま俺の手をとり、いきなり早足に歩き出した。
 一体何処へ行くつもりか。とりあえず何も言わないまま彼女に従っていると。

「——海?」

 海岸付近に出ていた。
 塩を含む夜の冷たい風が心地よい。

「あのさ、どういうつもり?」
「あ?」
 着くなり柊は背中を向けたまま、珍しく荒い口調で話し始める。
「泣いたから何なの? 目にゴミが入っただけかもしれないでしょ?」
 ——こりゃ絶対に怒ってるな。
「いや、心配するっつーの」
「なんで?」
「理由が必要か?」
「当たり前」
 相当頭に来ているようだ。先程の俺の態度、そんなに迷惑だっただろうか。
「だったらまず理由が必要な理由を教えてもらおうか」
「——だって」
「?」
 すると柊は、荒げていた口調が急にしんみりとしてしまった。
「女誑しだとか、一時的な情だとかって思いたくないからだよ。そりゃ、さっき泣いた理由はちゃんとあるよ。でもそれを聞きたいなら、まずは君についてを聞きたい」
「俺自身?」
「うん。あの日屋上で君と出会ってから、短い期間だったけど、今ではもう大体分かってるつもり。でも改めて聞きたいの。君がどういう人で、どんな考え方を持ってるのか」
「……」

 どうしようか。どうすればいい——
 きっと今現在とは、俺と柊の今後の関係について大きく左右される場面なのかもしれない。
 柊は俺に、こう聞いている。君ってどんな人なの——と。
 そしてその答え方次第では、二度と柊とは上手く行かなくなる。今まで培った"仲"が完全に消えてなくなる。
 そんな可能性すら示唆されている。彼女が漂わせる雰囲気が、特に強く蒼語っている。
 ならば俺は慎重に言葉を選ぶべきだろう。
 俺と柊の関係が断たれるだけならまだしも、最悪の場合彼女を傷つける事だってありえなくないわけだし。
「……立花哲也ってのは——」
 そうして俺が柊に伝えた、立花哲也という生き物とは——