複雑・ファジー小説

Re: 青恋物語【キャラ募集一時停止、題名変更】 ( No.26 )
日時: 2015/11/29 16:34
名前: キコリ (ID: JD5DDSYn)

「否応無く相手を信用するって奴だな」
 少々臭い台詞と共に、そう言い放つ。
「——なにそれ」
「よく言われるんだよ、お人好しって。お前みたいにポーカーフェイスな奴でも、一度は絶対信用する。それが俺だ」
 これで間違っていない。
「——それが一方通行でも?」
「?」
「君はそのつもりでも、私は君を信用してないかもしれないし、言葉にしたって嘘吐きかもしれないじゃん。それでも私を信用するの? 私っていう生き物を信じられるの?」
「あー」
 一見難問に見えるが、俺にとっては算数より単純な問題だ。
 こればっかりは自分に正直になれば答えられるわけだし。
「そりゃそうだよ、やってやられるのが普通だと思ってるからな。信じてくれって屁理屈言う前に、まずは相手を信じてナンボだろ。俺は今までそうやって生きてきたんだ」
「——それが君?」
「あぁ」
 俺の言葉は、柊に届いただろうか。
 少ない語彙でなるべく多く伝えるには、どうすれば良かったかと考えながら後悔しつつも。俺は柊の反応を待った。
 間違いなく何かを抱えているらしい彼女を、多少なりとも癒すことが出来ればと願いながら。
「……ひとつ、いい?」
「ん?」
 いつか見た悲壮感と共に振り向きながら、柊は上目遣いで俺を見る。
「あのさ、君の所為だからね」
「な、何が?」
「私がこんなことするの。私にこんなことさせちゃったの。君の所為だからね」
「?」
 一体何の事だと思っていると、柊はまた俺の胸に凭れかかってきた。
「え……」

 ただ——あの時とはまるで甘え方が違う。

 猫が飼い主に懐く様子だった当時と比べ、今の彼女は温もりを求めるように俺の胸にすがり付いている。
 単に寄りかかるだけでなく、背中に腕を回している。先程と同じく涙を流し、嗚咽は無く黙ったまま泣いている。
「——あのね、羨ましいなって思ったの?」
「?」
「さっきの家族のこと。君の言うとおり、不幸なんて知らないみたいだった。それが羨ましくてさ」
「両親と上手くいってないのか?」
「ううん」
 ゆっくり首を振り、柊は寂しそうな笑みを浮かべて、こう言った。

「死んじゃったの」