複雑・ファジー小説

Re: 青恋物語【キャラ募集一時停止、題名変更】 ( No.27 )
日時: 2015/11/29 17:15
名前: キコリ (ID: JD5DDSYn)

「え」
 死んじゃったの——その言葉が、何回も脳裏を木霊する。
「中学の時に、私を庇ってね。パパもママもトラックに轢かれた」
「……」
「あはは、ごめんね。こんな短い言葉を言うだけなのに、一々君について聞いたりして」
「いや、それについてはいいんだけど……こっちこそなんかごめん。嫌なこと思い出させたみたいで」
「いいの。このこと打ち明けたの、実は君が初めてでさ。今までずっと溜め込んでた分、ちょっとすっきりできた」
 思わぬ時に思わぬ過去を聞いた俺である。
 物語では良くある話だが、実際にこの手の話を聞いたのは今が初めてだ。
 哀しみを誰にも打ち明けず、ずっと一人で抱え込んでいた奴を見たのも初めてだ。
 柊がポーカーフェイスである理由も、きっとここに由来しているのかもしれない。
「……立花君」
「ん?」
「おこがましいかもしれないけど、お願いがあるの」
 気付けば柊は、目に涙を浮かべたまま俺を見上げていた。
「どうした?」
「そ、その……」
 そして一旦俺から離れた柊は、少しだけ頬を赤く染めてモジモジしながら言葉を繋ぐ。
 何を言うつもりか——
「君の温もりが欲しいの。どうか私の拠り所になって。荒んだ心なんて、もう抱え込みたくないから」
「……なるほどな」
 心の蓋が壊れて、溢れ出てくるのは恐らく寂しさだろう。
 同じ悲しみを目の当たりにしたくないと、無意識に孤独感を仕舞いこんでは他者を拒絶してきた柊。
 きっと強がっていたんだな、コイツは。本当は誰かに甘えたくても、その信用に足る人物を見つけることが出来ず。
 だからこうして、俺に縋りついてくるのだろう。
 これが一方的な考察だったら傍迷惑だし身も蓋もないが、いずれにせよ俺のやることは変わらない。
 目の前に、誰かの癒しを必要とする人がいる。そんな奴を誰が放っておけるか。否、少なくとも俺はできない。
 だから俺は、また以前のように柊を抱きしめた。
「きゃっ」
 最初こそ驚いたらしい彼女だが、体温が伝わる頃になると俺に体重を預けてくるようになる。
「……あと、もう一つ」
「ん?」
「あの……今夜、私に思い出を下さい」
「……分かった」
 俺は柊の身体を放すと、手をとって繁華街の裏道へと歩みを進めた。