複雑・ファジー小説

Re: 青恋物語【キャラ募集一時停止、題名変更】 ( No.30 )
日時: 2015/12/05 11:18
名前: キコリ (ID: JD5DDSYn)

 テストが終わると、周囲は一気に開放的な雰囲気となった。何処で遊ぶだの泊まるだのと、各々グループを築きながらワイワイとはしゃいでいる中。やはり俺は1人、静かに帰宅の準備を進めているのだ。
 しかし以前——1学期中間考査のときのそれとは違う点があり、俺と同じように周囲の空気から浮いている奴が複数目に付くようになった。その中には、いつか一緒に勉強をした撫川哀もいる。
 初めて面と向かって会話してから数日も経たない所為か、まだ積極的に言葉を交わすようにはなっていない。
 だからといって何が如何というわけでもなく、特に撫川が気になる女子の対象というわけでもないが、折角知り合ったのなら仲良くしたいところだと思う。よって、声を掛けようと思ったのだが。
『……声掛けて、どうすんだ?』
 問題はそこである。
 声を掛けるのは良いが、良い話のネタが見つからない。一緒に帰ろうにも、俺と撫川との帰路は180度真逆の方向であり、猶のこと距離も相当離れている。電車を使わないと会えないような距離だ。
「どうしました?」
「ふぁい!?」
 俺の視線を感じたのか、ボーッとしてたらいつの間にか撫川が目の前にいた。
 しかも近い。普段は意識しないと分からないような顔立ちのよさも、今は何も考えずとも分かる。
 ほんと撫川、ちゃんと見ると綺麗なんだよな——って、一体俺は何を考えている。
「何ですか? そんなに驚いて」
「いや驚くっつーの! 足音も気配も全く無かったぞ——お前アサシンか何かか?」
「呆けていた貴方も貴方ですよ。目の前から近付いたのに、私に気付かないなんて」
「いや、その……」
 お前の影が薄いんだよ——なんてこと、口が裂けても言えない。
「あれだ。声掛けようとしたんだけど、何話そうか迷ってたんだよ」
「——そうですか。では少し付き合っていただけますか?」
「いいけど、どこに?」
「私のお気に入りの場所です。親睦を深めるには、そこがいいかと」
「……」
 ちょっとからかってみる。
「親睦を深めたいのか?」
「……」
 すると撫川は少し赤くなって俯き、しかし相変わらず無表情なまま俺の手をとって早足に歩き始めた。
「ちょ、ととっ、わっ!?」
 しかも歩調が速い。それは校門を出てからも続き、俺は何回か足を突っかけて転びかけるのだった。