複雑・ファジー小説

Re: 青恋物語【キャラ募集一時停止、題名変更】 ( No.31 )
日時: 2015/12/05 11:47
名前: キコリ (ID: JD5DDSYn)

 そうしてやってきたのは、町外れにある高台の上。この辺りでは一番見晴らしの良い場所で、最寄の駅または学校からも数分で着く、人工芝生があって空気も清浄など様々な好条件が揃っている正に理想的な場所だ。
 しかしここを訪ねる人は中々いない。警察の目が中々届かない場所ということもあり、犯罪にはもってこいだからである。俺も以前此処へ来たときには、事件一歩手前の現場を見つけてしまい大慌てだった。
「——仲良くなりたいのは事実です」
「ん?」
 藪から棒に何かと思ったら、どうやらさっきの続きのようだ。
 撫川は俺の手を離し、こちらに向き直る。この時俺は、前髪の長い猫背ほど目を合わせづらいものは無いと思った。
「私に声をかけてくれる人なんて、そうはいません。知り合いは沢山いますが、彼らも進んで私に声を掛けようとしないのです。そんな中、貴方は私に進んで声を掛けようとしてくれた。その気持ちが嬉しいのです」
「——ふうん?」
 典型的な、孤独な少女と言ったところか。
 だが撫川が独りぼっちというイメージは想像がつかない。
 俺の視点から見ても本人の言ったとおり、知り合いはそこそこいるほうと見てとれるからだ。
 ただ、普段彼女は寡黙で堅い表情しかしないために、少し話しかけ難いというイメージはあるのだろうが。
「言いたかったのはそれだけ——別に他意はありませんから」
「そ、そうかい」

 それから暫くは、静かな時間が続いた。
 人工芝生に並んで寝転がり、風の音に耳を傾け、流れていく雲を眺める。ただそれだけの、夏の昼下がりだ。
 やがて空が夕焼け色に染まった頃——ようやく俺の考えが纏まった。
 穏やかな時間の中でずっと考えていた、撫川の暗いイメージを消し去る方法——転じて今の撫川を変えてやる方法が。

「——なぁ」
「はい?」
 打てば響くように返事が返ってくる。
 俺は暫く撫川の顔を眺め、改めて"素材"の良さを確認した。
「なんですか? そんなに見つめられても困るんですが……」
「あぁ、わりぃ」
 困らせてしまったようだが、確認は出来た。
 あとは本人の合意の上で、計画を実行に移すのみ。
「ところで撫川、お前ファッションとかお洒落に興味あるか?」
「……? えぇっと、別に無いわけでは。でも私が綺麗になれるわけも無いですし、諦めています」
「いや、なれると思うぞ」
「え?」
「俺の知り合いに、その手の話に詳しい奴がいる。お前折角可愛い顔してんだからさ、ちょっと触りでもやってみないか?」
「……いいのですか?」
「あぁ」
「——で、では……」
「うし、行くぜ! しっかりついてこいよー」