複雑・ファジー小説
- Re: 青恋物語【キャラ募集一時停止、題名変更】 ( No.32 )
- 日時: 2015/12/06 18:29
- 名前: キコリ (ID: JD5DDSYn)
俺が声を掛けようとした——その意思が伝わっただけで喜ぶ女子など、それこそ殆どいないものだ。
すると知り合いこそ多けれど、親密な間柄にある人とは撫川にはあまりいないのかもしれない。
だったら俺がその切欠を作ってやろうと、こうして撫川改造作戦に出たのである。
高台から歩いて、これまた数分。やってきたのは古臭いアパートの一室で、ここには俺の知り合いが住んでいる。
ファッションデザイナーとして一流と言ってもよい若手の男性、尚且つ俺の兄貴分みたいな人だ。
早速俺は201号室の前に立ち、少しばかり戸惑っているらしい撫川を背後に控え、壊れかけの呼鈴を鳴らす。
「兄貴ー」
「どうしたー?」
眠気を誘う間延びした返事が、若干のノイズを伴って返ってくる。
「ファッションデザイナーとして、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど、いいか?」
「あぁ、大歓迎だ。誰をキメてやればいい?」
「本人を連れてきた。玄関まで出てくれないか?」
「わかった」
プツリと音がして会話が途絶える。
間もなく出てきたのは、とてもファッションデザイナーらしい恰好とは言えないダサい部屋着の青年。
寝癖頭をポリポリ掻いて欠伸をするこの人こそ、俺の兄貴分こと"堂島純太"だ。
今年で確か23歳になる。どうでもいいことだが。
「……おぉ」
「んだ?」
「君が女の子を連れまわしてるなんて、どういう風の吹き回しだ?」
「うるへぇ。いいから、お願いしたいのはこの子だ。撫川っていう」
「ふうん?」
すると堂島は、俺の後ろに居る撫川の全身を舐めるように見回し始める。
しばらく眺めた後——丁度撫川が首を傾げた頃、彼は目を離して大きく2度ほど頷いた。
「よし、任せて。1時間もあれば十分だ」
「は?」
「え?」
1時間で何とかなるのか。激しい疑問が俺の胸を、きっと撫川も同じように渦巻く。
「撫川ちゃんだっけ? 君はとても綺麗な顔立ちしてるし、体型もバランスがとれている。ちょっと彼方此方歩き回ることになるけど、取らせる時間は1時間だ。それでいいかい?」
「は、はい」
今更ながら何だか流されるがままといった感じだが、当の本人は満更でもないらしい。
相変わらず無表情な仮面の奥から、そんなオーラが漂っている気がする。
「よし、じゃあ行こう。勿論立花も来るよな?」
「当たり前だ」
「よしよし、それでこそ彼氏ってものだ!」
「だから付き合ってないっつーの」
——そうして町中を歩き回ること、宣言どおりピッタリ一時間後。
美容院、ブティック、アクセサリー店などの、俺にはあまり縁の無い店を巡り巡った暁。
——撫川哀は、文字通り化けていた。