複雑・ファジー小説

Re: 青恋物語【キャラ募集一時停止、題名変更】 ( No.33 )
日時: 2015/12/06 19:20
名前: キコリ (ID: JD5DDSYn)
参照: 一文一文、ゆっくり読((ry

「!?」
 素直に驚いた。
 目は以前と変わらず茶色のカラコンをつけているが、それ以外が何というか、化けている。
 靴にヒール、服はシンプルなワンピース、前髪を少し短くして三つ編みにした髪。最後に伊達眼鏡。
 アレンジしたのはたったのそれだけだ。だが元々可愛らしいからか、それだけの変化でも印象は大分違う。
 相変わらず固い表情ではあるものの、漂う暗い雰囲気も大分薄れている。
「すげぇ……って、猫背も直したのか?」
「猫背矯正パッドってあるだろ? あれをつけてやったんだ。あとはこの子がカラコンを外してくれればよかったんだけど、頑なに断るものだからこれくらいしか出来なくて残念さ」
「いや——でも上等だと思うぞ」
 本人は少し俯きつつ、珍しく困ったように眉をハの字にさせている。
「ははっ、恥ずかしいのか?」
「べ、別に。それよりもありがとうございました」
「いやいや、いいよ。これが僕の生き甲斐みたいなものだからね」
「生き甲斐……」
「——?」
 生き甲斐という言葉を聞いたとき、撫川は少し遠くを見た——ような気がした。


    ◇  ◇  ◇


 夕日はすっかり沈んだが、俺らは再び件の高台までやってきた。
 撫川はスクールバッグの他に、自分の制服が入った紙袋を持っている。買った服を直ぐに着替えたためだ。
「……どうだ?」
「?」
 夜空を見上げる撫川に、何気なく会話を持ちかける。
「可愛くなれたと思ってるか?」
「——えぇ。少しは」
「そうか」
 ならばよかった。
「——貴方のお陰です」
「は? 俺?」
「実際に私を変えてくれたのは堂島さんですが、切欠は貴方でしたから」
「そ、そりゃどうも」
 何気なく近寄ってきた撫川からは、先程買ったらしい香水の香りが漂ってくる。
 きつくないがしっかり香る、優しいバラの匂いだ。
「明日のみんなの反応、どうなるだろうな」
「ふふっ、どうでしょうか。案外冷たいかもしれませんよ?」
「……」
 撫川が笑ったところ、初めて見たような気がした。
「——それだよ」
「?」
「そうやって笑ってればいいのにさ、何でいつも固いんだ?」
「……簡単には笑えませんから」
「?」
 すると撫川は俺に向き直り、自分の目を指差して見せた。
「私がどうしてカラコンをしているのか、分かりますか?」
「……えっと」
 何故かと聞かれても、理由に見当がつかない。
「どうしてなんだ?」
「所詮簡単なこと。この目が嫌いだからです」
「……ん? ん?」
 確かに簡単なのだろうが、理由の理由が謎である。
「親と同じ目だから、ですよ」
「嫌なのか?」
「えぇ。無駄に私に期待だけして、結局は勘違いしただけの馬鹿な親と同じ目ですから」
「——」
 察するに撫川、もとい哀の両親は親バカで、それが今や期待はずれな子供に成り下がったと思い込んだ。
 この様子では会話もあまり無いのだろう。何となく、家族らしい家族を何処かしら見失った様子が想像できる。
 で、結果的にさっきまでの暗く地味な哀を形作ってしまい、哀本人も両親を嫌悪することとなってしまった、と。
「哀の両親は何を期待した?」
「私にも分かりません。所詮は何かしら、この子は出来る子! みたいなくだらない幻想を思い描いていたのでしょう」
「親バカに適当に期待されて、でもって応えられなかった結果がこれと」
「えぇ」
「——その幻想、どこかの主人公に打ち殺してやりたいものだな」
「全くですよ。でも実際、壊れたのに変わりはないのでしょうけど」
「まあ、な」
 ——こういうとき、俺はどうすればいい。
 自然な形で打ち明けられた、哀とその両親との関係。
 果たして彼女は吹っ切れたいのか、或いは——
「でも、皮肉ですよね」
「?」
「これだけ親を嫌っても、非日常をいつかって夢見てる自分もいるんです。これ、親に似たことですよね」
 ——あぁ、やっぱりそんなことだろうとは思った。
「そうだろうな」
 何故って、今こうして以前より綺麗になった撫川といえば、どこか楽しそうな表情をしているのだから。
 表面上では無表情。でも内からは、そんな感情を滲ませているように思えるのだ。
「あの」
「?」
「明日、私は皆の反応を窺います。そして気分次第では、また明日貴方には私とここまで来てもらいますから」
「上等」
「ありがとうございます。それではまた明日」
「あぁ、おやすみ」

 ——少なからず吹っ切れたくとも、既に非日常を垣間見ているような。
 俺が見送った背中は、そんな複雑でも真っ直ぐな撫川哀だった。