複雑・ファジー小説
- Re: 青恋物語【キャラ募集一時停止、題名変更】 ( No.34 )
- 日時: 2015/12/06 19:43
- 名前: キコリ (ID: JD5DDSYn)
- 参照: まだ完結ではありません(あと数話ほど続きます。更新は来週から)
転校生が来た——翌日はそんな噂で学校が持ちきりだ。
だが、そう呼ばれている本人は撫川哀に他ならない。即ち転校生ではない。
しかしその変わり様といえば、かなりの評判を呼んだらしく。
「……」
放課後。俺は撫川に高台まで連れて来られた。
「私、分かったんです」
「?」
「こういう小さな非日常でも、経験できたことに対して喜んでいる自分がいるみたいで」
「——吹っ切れたか?」
「えぇ。どれだけ嫌っても、やはり血は争えません。私と親は似たもの同士です」
どこか清々しい表情の撫川。放課後からカラコンを外しており、今は透明感溢れる翡翠色の瞳が覗いている。
見ていると思わず引き込まれそうな、そんな美しさを含んで。そしてその目で、彼女は俺を見てはこう言うのだ。
「——おかしいです」
すっかり緩くなった表情がこちらに向けられる。
「何がだ?」
「人の気持ちって、たったの数日でも変わるんですね」
「?」
「気持ちというより、感情でしょうか。抱いたことの無い、新しい感情……」
「?」
すると撫川は、いきなり俺の手を握ってきた。
「ど、どうした?」
明らかに様子がおかしい。
頬が完全に真っ赤だ。握られた手も熱い。風邪でも引いたか。
「おかしいです。おかしいですよ、絶対に。些細な切欠を貰っただけなのに。ただ優しくされただけなのに。何て事の無い行動なのに。私が単純だからでしょうか?」
風邪——というわけではないようだ。
ならば何か。しかし一体全体、何を言いたいのかがサッパリ分からない。
「あの、驚かないで聞いてください」
「——」
とりあえず沈黙を以って、言葉の続きを促す——と。
「私、貴方のこと好きになってしまったようです」
「へ?」
唐突にとんでもない言葉が飛んできた。
「もっと私に刺激を下さい。毎日退屈しないような、こんな私を根本から変えられるような。そんな刺激がほしいです」
「——俺でいいのか?」
「貴方以外に、私を満たしてくれる人なんていないです……」
そのうち見つかるかもしれないのにか——と聞きそうになったが、そこからは野暮だと思ってやめた。
仕方ないので俺は撫川——哀の手を握り返す。
「あ……」
「別に、俺でよかったらいくらでも。吹っ切れても尚何かを求めるなら、好きなだけ与えてやるからさ」
「……」
人間、ほんのちょっとしたことでこんなにも変わるんだな。
案外こいつの言うとおり、単純なのかもしれない。哀がではなく、人間がという意味で。