複雑・ファジー小説

Re: 青恋物語【キャラ募集一時停止、題名変更】 ( No.35 )
日時: 2015/12/13 10:29
名前: キコリ (ID: JD5DDSYn)

 さて、あれから数日後。俺は哀と共に撫川家の前までやってきた。
 目的は単純かつ明快にして一つ。哀本人が両親と話をするためだ。
 片やついてきた俺は、哀の恋人として彼女の両親にご挨拶——などという平和的な理由でついてきたわけではない。
 色々な意味で底なしの謎をもつ彼女の両親だから、俺はサポート役のような形でここにいるわけだ。
「あれから単純な私が、どれだけ言ってやれるようになったでしょうか」
「心配すんな。俺も一緒に居るから」
「えぇ……心強いです。でも未だに分かりません。親に何と言えば良いのか」
 何をこう緊迫しているかというと、哀の容姿が変化してからのことである。
 曰く、雰囲気が変わった彼女に両親は大きく驚いたそうだ。
 そこで再び要らぬ何らかの期待が込められてしまったとのことで、今度こそ面と向かって「期待には応えられない」と言ってやるつもりでいるという。
 具体的に如何言ってやるのか、何故俺が出しゃばらなければならないのかは、本人も分かっていないようだが。
「そもそも何の期待をされてるかが謎なんだよな。一口に期待って言っても色々あるぞ」
「両親も私と同じで単純なのですよ。誰かの手を借りようが借りるまいが、何かを成し遂げると同じことを思うに決まっています。この子はやれば必ず出来る子、とか」
「ふうん?」
 ——即ち、哀の親が言う"期待"とは曖昧なものかもしれない。
 これが出来たのだから、きっと他にも何かが出来る。そんな、まさしく単純な理由を基にして考えるとするならば——
 何処の子供にもよくありそうな、一種の完成に親が褒め称えるのは分かる。例えば自転車に乗れるようになるとか。
 ただ、そんな当たり前が出来た程度で才能があると看破するのは大きな間違いだ。
 それは所謂、親バカというやつかもしれない。今回の場合、このパターンに当てはまるのではないだろうか。
「——理由はさておき、具体的に何を期待されてた? うろ覚えでも良い」
「考えたこともありませんが、強いて心当たりがあるとすれば幼稚園の頃です。当時から友達と呼べる知り合いがいなかった私は、一人で絵本を読んだりしていました。そのお陰で周囲の子供達より語彙が多かったので、恐らくそれに対してではないかと」
「やっぱりか」
 幼稚園児の語彙力だ。誰であれ1年もしないうちに、当時よりは立派に成長する。
 ましてや、遊び相手が居なかったから自然と身に付いたものに過ぎないのに、それを才能と見たのだろう。
「偶然にも他より少し優れていた語彙力からってことか」
「憶測の域を出ませんが、恐らくは」
「だったら言ってやることは簡単だ」
「え?」
「当たり前が出来て何が才能だ——そう言ってやればいい」
 そう、所詮は当然のこと。
 哀も女の子に変わりはない。哀に限らず例えどれだけ地味でも、切欠一つさえあれば可愛らしくなれるものだ。
 ——すると。
「分かりました。では哲也、ここで待っててください」
「ん? 大丈夫なのか?」
「えぇ」
 微笑んだかと思えば、哀は突然に家へと入っていった。
「お、おい」
 止める間もなくズカズカと、足音さえ響かせて。
 あの様子なら言い損ねもないだろうが、つい最近までロクなコミュ力も持たなかった哀なので少し心配だ。
 俺は玄関先で出迎えを待つ客を装い、隣接するリビングの窓から会話を盗み聞きするのだった。