複雑・ファジー小説
- Re: 青恋物語【キャラ募集一時停止、題名変更】 ( No.37 )
- 日時: 2015/12/13 17:02
- 名前: キコリ (ID: JD5DDSYn)
——その後。やってきた例の高台には、やはり人っ子一人いない。
逆に静寂は俺達を歓迎してか、ただ静かに夏の夜風が木の葉を揺らすのである。
「好きになれてよかったです」
「ん?」
「なんだか、目の前にある道が一気に明るくなったように思えます。あんな小さな切欠が1つだけ。なのにこんなにも事が進展してしまうなんて、普通はありえないはず。それを貴方は実現してしまったのですから」
「……」
人間という生き物が何かを分かっていないお前だからこそ——と言いかけたところを必死で押さえ込む。
世の中単純な奴なんてそういない。不良にも好みがあるように、人間関係については皆何らかの意思を交えている。
そんな中で哀というやつは、少し世間離れした育ち方をした所為か、こんな結果を招くことになったのである。
決して不幸な結果でもないのだろうが。少なくとも、目の前ではにかむ哀にとっては。
「ま、あれだ。経緯は如何あれ、今の気持ちに偽りが無いなら、それでいいんじゃないか?」
「——えぇ」
◇ ◇ ◇
ここに一つ、新たな絆が生まれた。
あまりに短い時期を経て、寛大な者と身勝手な者。
邂逅した二つの命は、互いに離れぬ関係となった。
しかし、仲が良い——これ以上の関係を知る者はおらず。
また、彼らの行方を知る者もいない。
◇ ◇ ◇
「畜生分かんねぇ……はぁ、こんなときに立花たちがいたらなぁ」
「仕方ないよ。消息不明なんだから」
七川稔は放課後、学校の図書館で教科書とノートを広げながらにペン回しで遊んでいた。
気だるそうにしている彼の傍らには、稲荷九太郎の姿。こちらは静かに問題集の内容を解いている。
一応、七川の言葉には耳を傾けているようだ。
「——っつーかお前、その髪型どうにかならんのか?」
七川が指をさす先には、凡そ男子には似つかわしくない髪形をした稲荷の頭。
長い髪を2つに丸くまとめたそれは、俗に言うお団子ヘアである。
七川にしてみれば、チャイナドレスを着てシュウマイを売る中国人に見えるのだという。
「どうにかって?」
七川の問いに答えても尚、依然として問題集からは目を放さない稲荷である。
「お前、男なんだろ? なんでそんな女みてぇな髪型してんだよ。いっそスポーツ刈りにしろっての」
「ダメだよ。これは僕の、一種のキャラみたいなものだからね」
「変なキャラ……」
独りごちに呟いた七川は、溜息をついてから窓の外を眺める。
すると夕暮れの日差しが眩しかったので、彼は目を細めて右手をひさし代わりに影を作るのである。
「しっかしホント、あいつら何処に行ったんだろうな」
「退学届けを出して、それっきり……僕らの関与するところじゃないとは思うけど、どうしたんだろうね」
「警察も捜索には手を焼いてるみたいだぜ。そのうち打ち切られるんじゃねぇの?」
「ありえるね。昨今の国家権力と言えば、そんなことに時間を割く余裕なんて無いだろうし」
「——それはそれで、胸糞悪い話だな。もしかしたら事件に巻き込まれてるかもしれねぇってのに」
「それはないんじゃない?」
「は? 何でだよ」
稲荷はペンを動かす手を止めると、七川と同じように窓の外を見た。
やはり夕暮れの日差しが眩しいのか、彼も自分の手をひさし代わりにして影を作るのだ。
「彼らが退学届けを出しに来た折、僕すこし様子を窺ったんです」
「——そしたら?」
「幸せそうだったよ。もう、不幸なんて言葉を知らないくらいに」
「ふうん……幸せそうだった、か……」
それから暫く、両者の間に会話は無かった。
『尤も、警察なんて動いてないんだけどね』
『あいつら……何を求めてるんだろうな』
それぞれ、心の中では言葉を残しつつも。
「——帰るか」
「うん」
そのやりとりを最後に、立花と撫川の噂をした者はいなかった。
Fin.
〜あとがき〜
かなりいい加減なストーリーになってしまったことに、まずはお詫びを申し上げます(ォィ
これにて撫川哀編が完結いたしました。
キャラを提供してくださった深海サボテン様に、心より深くお礼を申し上げます。
最後に残した謎については、本文中にヒントが隠されています。各々方各自で考察されては如何でしょうか。
答えは後日譚にて。では次いってみよー。