複雑・ファジー小説
- Re: 蒼雨【早くもキャラ募集】 ( No.9 )
- 日時: 2015/11/27 19:03
- 名前: キコリ (ID: JD5DDSYn)
屋上とは、俺こと立花哲也にとってこれ以上ないほど居心地の良い場所だ。高校に入学して2年目の秋——ここ最近、ずっと入り浸っている気がする。
自殺者が増えるなどの理由で普段の屋上は閉鎖されているが、俺はボランティア委員会の仕事で頻繁に屋上に来る。そのため放課後であれば容易に屋上へ来る事が出来、いつも独りの時間を満喫することが出来る。
その性質上、屋上には誰もいないはずなのだが——今日は違った。
いつものように鉄製の扉を開錠しようとした折、鍵が既に開いていたのである。
「……」
扉を開ければ、夕日と木枯らしが俺を出迎える。
今日はそれと同時に、一人の女子生徒の声も俺を出迎えたらしい。
歓迎されたかというと、そうでもないようだが。
「——見たの?」
「?」
誰かと思えば、見覚えのある人物だ。
コースも違えばクラスも違うが、確かこの子は柊静香。
歩く芸術品——とかいう珍しい二つ名で知ったのだが、確かにその通りだなと、俺はこの女子——柊と初めて目線を合わせて思い知るのだった。
「私がここに来るところ。ダメだよ、本来ここは生徒が来ちゃいけない場所なんだから」
どうやらお忍びで屋上にやってきたようだ。まあそうだろう。確かにここは進入禁止の場所であり、許可を得ていない生徒が出入りすると校則違反となり指導の対象となる。
だが俺には列記とした目的があり、先生の許可も取っている。お叱りを受けるのは俺ではなく柊の方に違いない。だったら俺が叱ってやろうと思い、そっちこそどうなんだと問うたのだが、共犯者だねという気の抜ける返事が帰ってきた。
「おいおい、俺はちゃんと許可を取ってここに来てるんだよ」
「そうなの?」
「ボランティア委員だから、貯水槽とか点検するんだ」
「ふーん……」
さぞ「興味ない」と言った風に鼻を鳴らしたかと思えば。
「いいなぁ。私もボランティア委員やればよかったかなー」
純粋に羨ましがられた。
柊も、屋上という空間を気に入った人なのだろう。
「——何故ここに?」
「前までは第二校舎の屋上にいたんだけど、先生に見つかって怒られちゃったからここまで来たんだ。君は私を怒ったりする?」
「いや——」
俺は真面目ではないが、風紀に関してはしっかり守るほうだ。
よって柊を叱ってやろうかと思ったが、そんな気も削がれてしまった。
何故なのかは、分からない。ただ強いて言うならば、柊に悪意が欠片も見当たらない所為だろう。
「別に怒らないよ」
「そっか。じゃあまだここにいてもいいよね?」
「俺がいる限りはな。また先生に見つかったら、今度こそ厳しい指導が待ってるぞ」
「あははっ、優しいね君」
自然と浮かべた笑みは間違いなく愛想笑いだろうが、何というか綺麗だった。
流石は歩く芸術品か。顔立ちは愚か、失礼ながらそれとなく観察してみればスタイルもまるでモデルのようだ。
各方面で噂されている辺り、かなりの人気者なんだろうなと思う。
「それ、私だけに向けてくれたりしない?」
「別に優しくしたつもりねぇし、仮にも人気者が名前も知らない男にそれ求めていいのか?」
「あぁ、君の名前なら知ってるよ。立花君でしょ?」
「!?」
鳥肌が立ち、戦慄を覚えた。
何故この女は俺の事を知っているのか——同時に激しい疑問が胸に渦巻く。
「——どうして俺の名前が分かった?」
「ふふっ、それは秘密っ」
悪戯っぽく笑いながら、柊は俺に顔を近づけてくる。
ふわりと女子独特の匂いが鼻を擽り、何とも言えない気分になった。
とりあえず、顔が近い。
「なーに赤くなっちゃってんの?」
「顔が近いんだよ」
「あははっ、可愛い奴〜」
何をそんな、幼児をあやすような歯の浮く言葉を——想像以上に隙のない人物だ。
からかってくる割にはかなりミステリアスな雰囲気を醸し出しているし、どこかしら雲みたいな人にも思える。
「じゃ、私そろそろ帰るね。バイバイ」
「おい……」
そういうと柊は、鞄を持って屋上を後にしてしまった。
呆気にとられた所為で呼び止める事も叶わなくなってしまったが、まあいい。明日もここへ来れば、きっといることだろうし。