複雑・ファジー小説
- Re: 名も無き世界【オリキャラ募集中】 ( No.222 )
- 日時: 2016/03/01 18:53
- 名前: 翌檜 (ID: n1ZeCGPc)
第二十五章 名も無き林檎
「……成木さんが、いなくなりました!」
「い、急いで親族に連絡を!」
此処は、警察病院では無く、普通の何処にでもある病院。
「どうやら、実家には帰っていないようです」
「……成木 林檎さんを危険な状態になる前に絶対に探しだせ!」
此処は、とある部屋。
「おい、御堂の奴が捕まったみたいだ。俺達もそろそろ、まずくないか?」
「ああ、しかも、御堂のおかげで、今まで、詐欺もバレずに済んだのに……」
此処は、詐欺グループの拠点。
「……!おい!騙した金が……全部無くなっているぞ!」
「はあ?な訳無いだろ?……嘘だろ?……まさか、若城 迎(わかぎ むかえ)の奴が……」
男は走る。自由の為に。
女は走る。自由の為に。
男は走る。これからの夢の為に。
女は走る。これまでの夢の為に。
男は街の外れにいた。
そこには、果樹園が一面に広がっていた。
「此処まで、逃げれば、大丈夫か……」
男はリュックを背負っていた。リュックの中身は、詐欺で騙した金。
男は橋を渡ろうとしていた。
その道中に、橋の手すりに座っている女がいた。
女は歌う。
「新しい朝が来た 希望の朝だ
喜びに胸を開け 大空あおげ
ラジオの声に 健やかな胸を〜♪」
途端に女は気を失い、橋から落ちようとしていた。
男は咄嗟に女の腕を掴み、橋からの転落を防ぐ。
女は目覚める。
「あれれ???私、倒れてましたか!!!」
男は驚いている。
「倒れてましたかって……倒れたら、橋から転落して死ぬ所だったんだよ。……どうして、そんなに笑顔でいられるんだ」
男は女の格好を見る。女の格好は、裸足で病衣だった。
「君、病院から……」
女は笑いながら男を見つめる。
「そう!!私、病院から脱走して来たんです!!!やっと、コンクリートの箱から飛び出せたんです!!!」
男は携帯を取る素振りを見せたが、携帯を元に戻す。
「……救急車とか警察とか呼ばないんですか???まあ、私は全力で逃げちゃいますけど!!!」
男は笑っている女を見ている。
「俺には、呼べない。何故なら、俺は……逃亡しているからだ」
女は笑っている。
「奇遇ですね!!貴方も逃げているんですか!!!……で??何から逃げているんですか?」
男はリュックを隠す素振りをする。
「……同じ、病院だよ。俺は、ちゃんと計画して脱走した。だから、ちゃんと服も用意して着ているし」
女は目を輝かせていた。
「本当に同じだったんですね!!私、大分感動してます!!でも、服なんて着れれば良いじゃないんですか??」
男は動揺していた。
「いや……あの、病衣だと、すぐに病院から脱走したと言う事が分かると思って……」
女は男の格好を見る。
「まあ、そんな細かい事は置いといてさ!!これも何かの縁だよ!!病院から脱走した理由とか色々聞きたいし、私自身も行きたい場所がいっぱいあるからさ!!私と一緒に旅行しようよ!!……最初で最期のね」
女は男の腕を引っ張り、何処かへと行く。
男と女は、公園にいた。
男は女の方を向いた。
「……君の超能力って何だい?」
女は常に明るく男に接する。
「無いよ!!私には、超能力は無いんだよ!!」
「超能力が無い人なんて聞いた事無い。まさか、君はアンドロイド?……もしかして、違法サイボーグとか!?それとも……」
男は女から少し離れる。
「人間じゃないとか超能力者とかアンドロイドとかサイボーグだとか、案外どーーでもいいことなんだよ!!!」
それから、女は話す。
「ねえ、そういえばさ。貴方の名前って何?」
「俺の名前は、若城 迎……」
「私の名前はね!!成木 林檎!!」
若木は空を見る。
「それで、どうして君は、病院から脱走したんだ?」
「私、今、19歳なんですけど、20歳まで生きられるかどうか分からないってお医者さんに言われたんだ!本当は、最期まで生きる事を諦めないで、病室にいるべきなんだけどさ……。最期くらい、外に出てみたかったんだよ!!それで、君はどうして病院を脱走したの??」
若木は言葉に詰まり、話題を変える。
「いや、まず……死ぬの?」
「は〜いっ!その通り!!私もうすぐ死ぬんです!!でも見てください!!ピンピンしてます!!ぶっちゃけ今めちゃくちゃ人生楽しいです!!」
成木は元気な素振りを見せる。
「……そ、そうか……」
若城は得意の嘘で、成木を騙そうとしていた。
「俺は……。俺も……死ぬんだよ。うん、死んじゃうんだよ……でも、あれ、すぐにと言う訳じゃないよ?……うん、そうそう」
若城は成木が超能力が無いと嘘をつく程、凄い超能力を持っていると勘違いしていた。
「え〜っ!!!でも、まだ私みたいに一年後とかじゃないから良いよね!!」
若城は少しだけ罪悪感に襲われた。
成木はブランコを見る。
「私は、死ぬなら、大空の中で死にたいんだ!!だって、最期に見る景色が、真っ白な天井って、あまりにも悲しいからね!!」
成木はブランコに乗る。
「私、ブランコって初めて乗るんだ!!……こんなに楽しいんだ!!」
成木は子供のように、ブランコで遊んでいた。
成木は話す。
「君も考えた事あると思うけど。病気なんかにならなくて、普通に生きていたら、私の人生ってどうなっていたかな〜って!!」
若城は、咄嗟に頷いていた。
ブランコは大きく振れる。
「普通に友達が出来て、普通に学校に通って、普通に外で遊んで、普通に……親友や恋人が出来たりしてさ!!」
若城は、小さく頷いていた。
「……でも、生きる事の大切さを学んだから、良いんだ……!!君もそうだよね?」
「ああ!そ、そうだよ!」
若城は、成木の隣のブランコに乗る。
若城は自身の人生を思い返していた。
友達と一緒に過ごした退屈な日々。学校に行っても、やる事は居眠りくらい。外で遊ばず、一人で家の中でゲーム。親友も恋人もいたけど、金の為に騙し、裏切った。
若城は外の世界の汚れを知らない成木を見つめる。
「ねえ、今日、私たちが出会ったのって……運命かな!!まあ、運命じゃなくても、出会ったのは変わりないから、ぶっちゃけどうでも良いんだけど!!!」
若城はリュックを自分の太ももに乗せ、抱きしめる。
若城は大きな罪悪感に包まれていた。
「成木さんの病気ってどうにか、ならないんですか?」
「どうにか、なっていたら、脱走なんかしないよ〜!!でも、脱走して良かったよ。死ぬ前に、私の気持ちを知る事が出来る君と会えたからね!!」
「……お、俺も良かったよ」
若城は金を放り投げても、この場から去りたかった。
罪悪感は若城の感情を支配していた。
しかし、成木と一緒にいると言う事で、何かが起こっても絶対的な安心が勝っていた。
彼女の超能力は、警察を恐れない程の強力な能力のはずだからだ。
そんな事を考え、その場から動けずにいた。
だが、実際は気付いていた。
彼女には超能力が無い事を。
自分でも、何故、自分に嘘をついているのかが、分からなかった。
彼はまだ、恋に気付いていなかった。
「ねえ……死ぬまでで良いからさ!!私と一緒に逃げない?これも何かの縁だし!!」
冗談まじりで、成木は笑っていた。
「ああ……。逃げよう。俺達は何処へでも行ける。何故なら、自由だからだ!!!」
「……そうだね!!私達は自由だから!!!」
「おい、若城の奴を見つけたぞ。女と一緒だ」
「……先回りして、金と命を奪うぞ」