複雑・ファジー小説

Re: 名も無き世界【オリキャラ募集中】 ( No.82 )
日時: 2016/01/05 16:46
名前: 翌檜 (ID: n1ZeCGPc)

第九章 名も無き似非




俺は奇跡なんて信じていなかった。

しかし、俺は今、奇跡を見ている。


瀕死だった彼女の身体は、ピクリと動き、目を開いた。

そして、俺を含めた沢山の人々が歓喜した。







時は少し前に遡る……。





俺の名前は、朽葉 蓮 (くちば れん)

俺は今、病院の廊下を走っている。誰に何を言われようが、俺は走った。
俺は息を切らして、手術室へ向かった。
手術室には、一人の男が座っていた。

その男の名前は、白樺 和人。俺のクラスメイトであり、俺と同じ陸上部のメンバーであり、俺の友人であり……叶多の幼馴染だ。そして、俺は和人を色んな意味でライバルだと思っている。まあ、和人の方はライバルなんて思っていないだろうが。

和人はゆっくりと口を開く。

「蓮......」

俺は和人に向かって話す。

「叶多は、大丈夫なのか?!」

和人は悲しそうな表情になりながら話す。

「大丈夫かどうか、あまり分からない......。僕はどうすればいいんだ.....!叶多の為に何が出来るんだ......」

一人の男がこちらに向かって歩いている。

一人の男は話す。

「おい、和人、蓮。叶多が事故に遭ったって本当か?」

彼の名前は、三國 涼太 (みくに りょうた)

同じ陸上部のメンバーで、叶多と和人と俺と一緒に良く遊んだりしている。性格は、一言で言えば冷静沈着。

和人は落ち着きを取り戻し話す。

「涼太。信じられないが本当なんだ.....叶多は大きな事故に巻き込まれたんだ」

俺は頷いた後、辺りを見回して話す。

「そうか……あれ?叶多の親は?」

和人は話す。

「叶多の親は、仕事場から病院には向かっているけど、距離が遠いからもう少し病院に着くまで時間がかかるみたいだ。他にも、祖父、祖母や親戚が来るみたい。さっき連絡したから」

……俺達四人は、仲が良いグループだ。いつも一緒に遊んでいた。中でも和人と叶多は幼馴染と言う事もあり、仲がとても良い。時々、恋人の様に見えてしまうほど。俺は嫉妬していた。何故なら、俺は……叶多の事が。


三人は沈黙した。当然だろう。永遠だと思っていた日常がある日、遠くへ行ってしまったのだから。

今は叶多の無事を祈るだけだ。

その後、叶多の親と親戚や俺と和人と涼太の親も交流して、一緒に手術室の前に集まっていた。




手術室の扉が開いた。

扉を開けた一人の女性が話す。

「……一命は取り留める事は出来た。安静の為、しばらく入院してもらう事になるけど」

そして、叶多が運ばれる。

俺達は、一目を憚らず歓喜した。

この出来事は忘れる事は無いだろう。





そして、現代。俺達は全員17歳から18歳になった。当たり前かも知れないが、年をとるのは生きている者のみだ。死んだら、年はとらない。





日常が壊れてしまわぬように、俺達は日常を過ごしていた。

キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン……。

学校のチャイムが鳴り響く。休み時間だ。



叶多と俺と和人は同じクラスだ。涼太は別のクラスにいる。

叶多は俺と和人に話しかける。

「ねえ、今日部活が終わったらさ、涼太も誘って一緒に勉強会をしようよ」

和人は話す。

「……ああ、そうだな」

叶多は話す。

「それじゃ、私、借りて来た本を返しに来るから」

叶多は、そう言って図書室へ向かって行った。

和人は俺に話しかける。

「なあ、僕達の知っている叶多ってこんなだっけ?」

俺は突然の質問に動揺する。

「さ、さあ?俺にはいつも通りの叶多にしか見えないけど……」

和人にしか分からない叶多の些細な変化があったのだろうか……。

和人は続けて話す。

「何か、叶多は無理しているように見えるんだ……。僕にも良く分からないけど」




図書室では、叶多がオカルトの本を見ていた。

叶多は呟く。

「いつまで、この娘を演じていればいいんだろ.....本当の私を、和人に見てもらいたいのに.....でも、こんな事どう説明したら良いか分からない.....しかも、本当の私を和人に分かってもらってもこの日常は完全に崩壊してしまう。......それ以前に、本当の私って誰なの?」



教室で、和人が話す。

「叶多......」

一緒にいると分かるが、叶多と和人は両想いだ。しかし、どちらも告白は出来ていない為、友達以上恋人未満と言う関係だ。

そして、俺も叶多の事が好きだ。しかし、この気持ちを叶多に伝えてしまえば、日常は崩壊を始めて、叶多や和人との関係が悪化するだろう。俺は、今のままで良いんだ。今の関係のままで……。何も変わってはいけない。変えてはいけないんだ。
でも、出来る事ならば、叶多と付き合いたい。彼女の優しさや明るさを一番近くで見ていたいんだ。