複雑・ファジー小説

Re: 天使の翼 ( No.66 )
日時: 2016/03/15 23:19
名前: 猫のスーパーハルサメ ◆15FVZlz4dc (ID: qESkNdgF)
参照:

朝になった。
 起きるとまず、失明するんじゃないかと思うくらい眩しい朝日が目に入ってきた。
 次に目に入ったのは周りに置かれている綺麗な陶芸品だ。
 おそらく国王の趣味だろう。
 俺達が寝床にしているのは国王のコレクション倉庫だ。
 国王救った英雄ならもっといいところに寝かせてくれてもいいのにと思うのだが残念ながら全ての部屋が満員らしい。
 
 「んんー、おはようメル!」

 朝だというのにムファンは大きな声で俺に挨拶をする。 
 
 「おはよう... ...って朝からうるさいぞ」
 「いいじゃないの!朝から元気なのはいいことよ!」
 「俺の気持ちを考えてくれ... ...あれから一週間、母さんは存在を隠さなきゃいけないし、俺は背中の翼を隠さないといけないし... ...」
 「ま!私は城の図書館から魔法辞典を見つけ出して新しい魔法覚えられたから満足なのよ!」
 「へー」
 「なに興味なさそうに!」
 「だってどうでもいいし」
 「な!なんですって!?」

 うるさいムファンをはねのけ部屋を出る。
 部屋を出ると偶然、向かいの部屋からも人が出てきた。
 ユシャンだ。
 
 「おはよう、ユシャン」 
 「んー... ...おはよう... ...お兄ちゃん... ...」

 ユシャンはまだ寝ぼけているようで目を擦っている。
 
 「ユシャン、眠いんなら顔を洗ってくれば?」
 「うん、わかった... ...」

 ユシャンはそう言い、顔洗い場のある方に向かう。
 俺はユシャンの出た向かいの部屋のドアを開け、中にいた人物に声を掛ける。
  
 「おはようございます。カイさん」
 「ああ、メルフィン君か、おはよう」

 カイさんは何か本を読んでいるようだったがパタンと本を閉じ、俺に挨拶を返す。

 「ああ、すいません。読書の途中でしたか」
 「いや、この本にも飽きていたところだったし、ちょうど良かったよ」
 「そう言えば、あの後、お咎めなしだったそうですね」
 「まあね、国王陛下の寛大さには感謝すべきだね」 
 
 あの事件の後、カイさんは光速であることが王国側にバレてしまった。
 流石にカイさんも諦めたのか自首をしたが、国王は自分の命を救ったお礼にと、カイさんを許してくれた。
 カイさんは国王を寛大だといったが、はっきり言うと本当に寛大ならカイさんが近衛隊長になりたくないと言った時点で許すはずだろうから、少なくとも寛大ではないだろう。
 
 「神の子供たちのリーダーを倒したのも許してくれた理由の一つでしょうけどね」
 「まあ、神の子供たちもリーダーが生きていれば今のように崩壊はしなかっただろうね」

 神の子供たちはあの後、リーダー死亡のことや、国王暗殺に関わったとして、大半の構成団員がとらえられ、事実上の崩壊となった。
 
 「生きていたところで国王暗殺の罪状は変わりませんし、いずれは崩壊してましたよ」
 「ははっ、そうかもね」
 「すいませーん、もうすぐお食事の時間です」

 メイドの人が俺たちを食事に呼びにやってきた。

 「あ、はい。分かりました」

 パーティーは朝にやるらしい。
 普通は夜にそのやるものだと思うのだが俺たちが早く旅立つのを心配し、朝にパーティーをやることにしたらしい。 
 普通にゆっくりしていくつもりなんだけどな 
 まあ、いっか
.
.
.
パーティー会場に着くと会場にいた人間に一斉に拍手された。
 多分、王を救った英雄が来たから感動のあまり拍手したのだろう。うん、絶対そうだろう。
 パーティー会場のど真ん中にはユシャンがいた。
 あいつ、顔洗い場に言ったと思ったらもうパーティー会場に行ってたのか。
 ていうか、もう肉とか食べてるし... ...
 さあ、俺たちも肉を食べないとな。
 そう食事の場所に向かおうとするとたくさんの貴族に囲まれた。

 「えっと... ...なんでしょうか?」

 俺が用件を聞くと貴族たちは口を開いて「私の娘をどうか嫁に!」とか「私の近衛隊長に!」だとか、どれもそいつらのくだらない内輪に巻き込まれそうだったのでてきとうな返事をしてその場を立ち去った。
 だが、たまにとても可愛い貴族のお嬢様に声を掛けられてドキッとしてしまうが何故かムファンに足を踏まれ、その場から離れさせられた。
 あいつ、俺のこと隙なのかな?
 いや、所詮は親友感覚なんだろう。俺はムファンのこと好きなのにな... ...
 そんなこと考えていても仕方がないな。今は食事を食べることに集中しろ!
 食事はやはりとても豪華だった。
 血のように赤いワインや噛むと肉汁が溢れる肉、棒のように長いパンなど、いつもは食べられないものばかりだ。
 なにから食べようかなー?

 「お!君かわいいね!ちょっと話でもしない?」
 「私、あなたみたいな性格の人、苦手克服なのでお断りします」
  
 隣でなんかめんどくさいのが起こっているなーと思ったらムファンが王子様のような衣装を纏った男に話し掛けられていた。
 よし、逃げよう。

 「えー、いいじゃん。僕、見た目で分かると思うけど王子様なのさ!それも第二王子!兄が后様の子だから国王になるのは無理でも、左大臣の地位には着けると思うよ!」

 こんなやつが左大臣に着いたらマトーレ王国滅びるな。

 「結構です!あなたよりもメルの方が百倍マシよ」

 マシって... ...なんか俺も悪いみたいだなそれ... ...
 まあ、所詮は只の幼なじみか... ...

 「へえ、そのメルってのはどこにいるのかい?」
 「あれよ」

 そう言いムファンは俺を指差す。
 
 「おい!何指差してんだよ!巻き込むなよ!」
 「いいじゃないの!メルもちょっとだけ関係あるし」
 「ないよ!米一粒もないよ!」
 「へえ... ...君がメルかい?もしかしてあの逆臣ゴルランゲスを成敗した英雄メルフィン?」

 第二王とやらは少々、俺が気にくわないみたいだ。
 それもそうだ。こんなボロボロのマントを羽織っている男に負けるなんて悔しいだろう。
 
 「あのー、俺は関係ないんで食事に戻ってよろしいでしょうか?」
 「いや!決闘だ!この僕と決闘しろ!」
 
 出たよ。こんな感じで決闘申し込む奴。

 「いいでしょう。王子様とはいえ、手加減はしませんよ」

 そんな感じでパーティー会場の真ん中で決闘が始まった。
 会場にいた人間は全て俺と王子様をみている俺の実力に興味津々なんだろう。

 「いくぞ!第二王子コーパス参る!うおおおおおお!」

 王子様は俺に突進してくるが構えが素人同然だ。
 守りも薄いし、あんなんじゃすぐにカウンターを食らうだろう。
 俺は常人よりも容赦なく攻撃するだろうしな。

 「はぁ!!」

 俺は無剣流初級技の無剣を放つ
 この技は威力は高いが隙がありすぎるので実用性はほとんどない技だ。
 だが、こういう相手になら十二分通用するだろう。

 「うわああ!」

 剣は一応、命の安全のために木刀にしておいた。
 王子様に死なれても困るしな。
 その木刀によって放たれた技は王子様の脚に直撃し、頭から王子は倒れる。
 勝負あったな。

 「うおおおおおお!」
 「さすが英雄!」

 野次馬からは歓声と感嘆の声が鳴り響く。

 「くそう!もう一度だ!」

 一方王子は諦めてないようで、まだ戦おうと思ってるらしい。
 すると野次馬の中からとても身長の高い男の人が王子様を止めに入った。
 顔がどことなくゲルスィート六世に似ているおそらく、第一王子の人だろう。

 「コーパス、終わりだ。お前は負けたんだ」
 「エカルス兄さん!?いや違う!負けてなんかいない!」

 そう言い、王子様は俺のマントを掴んでくる。
 おい、何すんだ。マントが破けたらどうするんだ!
 と次の瞬間

 マントが外れ、俺の背中にあった翼が露わになった。