複雑・ファジー小説

Re: 空へ向かう鳥と黄昏の世界【旧名 天使の翼】 ( No.78 )
日時: 2016/04/01 20:15
名前: 猫のスーパーハルサメ ◆15FVZlz4dc (ID: qESkNdgF)
参照:

そのアンデッドは他と違い腐敗臭はせず、綺麗な死体のままだ。
 黒い髪に紫の瞳、生前は美少年だっただろう。
 そのアンデッドに向かってムファンは火の魔法を撃ち込む。
 アンデッドは焼き焦げるが次の瞬間、再生して元通りになっていた。

 「は!?ありかよ。そんなの!」

 思わずそう叫んでしまう。
 だが、今までのアンデッドは炎魔法で殲滅できたが、こいつには効かない。
 なかなか、厄介なやつだ。
 おそらく、ファインが遊び心満載で創ったのだろう。
 迷惑な野郎だ。

 「ここは俺に任せて! ムファンは気絶しているユシャンを介抱してくれ!」
 「了解!」

 ここで無心王剣を放てば奴は倒せるかもしれないが家も崩壊するだろう。
 母さんのいない家なんてもう必要はないが崩壊した家の下敷きになるのは勘弁なので、瞬殺剣を放つ。

 「うっ... ...」

 先ほどのファインとの戦いで体力を消耗しているのかはたまた、アンデッドとの連戦で疲れたのかは分からないが一回、瞬殺剣を放っただけで息が激しくなる。
 だが、アンデッドは終わりだろう。
 そう、安心していたが、アンデッドは首をはねられたら後、また再生し、何事もなかったかのようにこちらに歩んでくる。

 「こいつは今までとは格が違う... ...俺はもう体力が保たない... ...カイさん、頼みます」
 「ああ、分かった。氷の刃〈ラムドグラース〉」

 カイさんの剣が氷に変化し、アンデッドの周りに集まり、アンデッド諸共、巨大な氷と化す。
 カイさんがパチンと指を鳴らすと氷は粉々に砕け、アンデッドもそれに巻き込まれバラバラになる。

 「やったな」
 
 カイさんが安心したように言うがまだだ... ...
 奴はまだ、蘇る。

 予想は当たり、アンデッドは氷の中から肉体を一つ一つ繋ぎ、復活する。

 「しぶとい奴だな... ...まあ、いいだろう攻撃していけばいずれ倒れるだろう」

 カイさんはそう楽観的に考えるが俺はそう思わない。
 アンデッドはおそらく再生能力は最強レベルだ。
 
 「うあああァァァァァァァァ」

 アンデッドはそう言いながらカイさんに噛みついてくる。
 初めは避けては攻撃を繰り返していたカイさんだが流石に体力が保たないようでその場に剣を落としてしまった。 
 
 「な!?」

 カイさんは驚き、動きが鈍くなっている。
 そこへ、アンデッドがカイさんに襲い掛かり、カイさんの右腕に噛みつく。

 「ぐああ!」

 噛まれたことでカイさんは大きく叫ぶ。
 そして、噛まれた所は青黒く変色している。
 
 「まずい、アンデッド化する!」

 確か昔読んだ本でアンデッドに噛まれた者は初級解毒魔法で噛まれたところを解毒しないとそのものもアンデッドになるって書かれてた... ...
 このままじゃカイさんが!
  
 「く... ...解毒〈デザントクスィカスィオン〉」

 そう心配していたが、やはりカイさんは解毒魔法を覚えていたようで噛まれた傷口を手で押さえ、魔法を唱え解毒する。

 「メルフィン君、私はもう心配いらない。だが、あのアンデッドはムファン君に襲い掛かっていく、確かムファン君は解毒魔法や回復魔法が使えない。さらに、僕は先ほどの解毒魔法でもう魔力切れだ。すまない、彼女を守ってくれ」

 守れって言ったって体力はもう限界だし、あいつには聞かないし、何か身を守るものでも... ...身を守るもの?
 ああ、あの『オフダ』とやらがあったじゃないか
 あれに対アンデッド用の効果があるかは分からんが、一か八かだ。
 行くしかない... ...
 そう決断したあと、俺はポケットに入れていたオフダを取り出しアンデッド目掛けて貼り付ける。
 効果はあったのかアンデッドは「ウガアアアアア」と悲鳴を上げ消滅していく。
 このオフダとやらはアンデッドなんかを消滅させるためのものだったらしい。
 だが、これでもう安心だ。

 「ムファン!ユシャンは無事か?」

 俺はムファンに近寄りユシャンの容態をたずねる。

 「介抱はしたし、直に目覚めるわ、そう言えばメル、気になったんだけどリリアさんは?」
 「... ...母さんは... ...」

 俺が暗い顔をしているのに気づいたのかムファンは察した様子で
 「そう... ...ファインに?」

 俺は小さく頷くと、ムファンはがっくりとうなだれ、顔を下に向ける。
 よく見ると、膝には小さな水滴がぽろぽろと落ちていた。
 彼女は泣いていた。

 「泣くなよ... ...ファインを倒して仇を討とうぜ」

 俺は慰めるように言うが、その声には元気がなかった。
 だが、静寂の空間は一つの呻き声でかき消された。
 後ろを向くと『アンデッド』と化した母さんがこちらへ向かっていた。