複雑・ファジー小説
- Re: 空へ向かう鳥と黄昏の世界 ( No.79 )
- 日時: 2016/04/02 15:43
- 名前: 猫のスーパーハルサメ ◆15FVZlz4dc (ID: qESkNdgF)
- 参照:
十七話「雨の降る夜」
外からザーザーと雨の降る音が聞こえる。
これは大雨だろう。
だが、俺はそんなのに構ってられなかった。
今は目の前にいる変わり果てた母を見ることしかできなかった。
母さんは今、ただのアンデッドと化している。
さっきの上位アンデッドと違って首を斬るなり心臓を斬るなりすれば活動停止し、日が昇ればアンデッドの体は灰になり消滅する。
だが、それを今行えるのは俺とムファンだけだ。
ユシャンは気絶しているし、カイさんは体力が限界だ。
体力が回復しつつある俺とほとんど魔力を温存しているムファンなら母さんを殺めることができるだろう。
だが、ムファンは今それをやれば後悔と罪悪感で精神が崩壊するかもしれない。
だから、俺がやるしかない。
だけど
だけど
なぜか体が動かないんだ... ...
「うぁぁ... ...」
母さんがこちらに近づいてくる。
見た目は先ほど死んだばかりのためかほとんど面影を残しているが、ゆっくり歩く姿と生気のない目は別人のようだった。
歩くたびにバサバサと揺れる翼は唯一何も変わってないように思えた。
実際は死んでいることを除けば何も変わってないのに... ...
「メル... ...」
ムファンが俺に対して不安そうに声をかけるが俺は優しく微笑み「大丈夫だよ」と囁いた。
母さんが俺の目の前に来たとき俺は剣を鞘から抜き、構えた。
(心臓を刺せばすぐ終わる... ...やれ... ...さっさと終わらせるんだ... ...)
頭の中ではそう言って聞かせているのに体が動かない。
「なんで!なんで!動かないんだよ!母さんはもう死んでるんだ!だから、せめて俺の手で楽にさせればいいのになんで動かないんだよ!動けよ!」
俺は大きく叫ぶ自分に訴えるが体は相変わらず動かないままだ。
「メルフィン君... ...無理をするな!私がやる!」
片膝をついたまま、カイさんは言うが、あの体で動いちゃだめだ。
まだ体力が回復してないじゃないか。
「メル、私の炎魔法でリリアさんを消滅させるから、下がって!」
「いや、お前がやったら絶対立ち直れないだろ。俺がやるよ... ...」
ムファンが手を汚す必要はない。
母さんは俺の唯一の母だ。
そして、俺は母さんの唯一の息子だ。
この決着は俺が着ける。
「動け... ...動け... ...」
だが、体は動かない。
そして、母さんは動かない俺の左腕に噛みついてくる。
「ぐああっ!」
激しい痛みが左腕から全身に伝わる。
ここで認識した。
もう、このアンデッドは母さんじゃない。母さんはさっき死んだんだ。
そうだ、このアンデッドは敵だ。
殺さなきゃ、やられる。
母さんはいない。
目の前にいるのはただの化け物だ。
「う... ...うがああ!」
俺はそう叫び、母さん目掛けて剣を振り下ろした。
その瞬間、母さんとの思い出が走馬灯のように浮かんできた。