複雑・ファジー小説
- SiKi-1- ( No.3 )
- 日時: 2015/12/18 23:16
- 名前: 自由帳 (ID: kAWEuRKf)
-SiKi-
私たち、小さく言えばヒトは、大きく言えば生命は一つの法則の上で生 きている。
弱者は死に強者が生きる、歪まない一つの法則、弱肉強食の定理。
私はただただ無心に銃弾を放ち、ヒトを肉片に変える。
味方の士気を与え、敵に死期を与える。
私の仕事は、そんな残酷な作業だ。
「命だけは……」
「これは戦だ、愚か者」
命乞いに耳を傾けるわけもなく、アサルトライフルの弾丸を敵だった物を貫通する。
声にも聞こえない慟哭が何処からともなく響き、ヒトが物に変わる。
戦とは、そんな非情な物なのだ。
優しさ何て無い、ただただ本能的に殺戮を繰り返す死に場所。
- SiKi-2- ( No.4 )
- 日時: 2015/12/19 10:20
- 名前: 自由帳 (ID: kAWEuRKf)
一つの部隊を制圧した我々は、1人の青年と対談を行っていた。
それは機密裏に行われ、この事実知っているのは革命軍の中でも上層部の僅かな人間だけだ。
「オッサン達は、どうして戦おうとするんだ」
戦争の真っ只中の、その戦争というのは革命軍と政府軍の内戦なのだが、私が今対面しているのは政府軍の一部隊の頭を務めているという青年だ。
私は革命軍のリーダー。我々は敵同士という訳だ。
青年は腕を組み、我々に警戒の意を示していた。当たり前の事だ。
「私とて、敵に情報をやるつもりはないんだがな、そういう君たちは何のために戦うのかね」
敵対勢力の、形式は違えど一つの勢力をまとめる権力者の対談の場。
それは少し間違えれば命が飛ぶ、という雰囲気ではなかった。
「先に語れ、と」
「何もそういうつもりではないよ。そうだな……敵であり若者である君の意見を知りたいだけさ、こんなジジイの意見に毒される前にな」
「俺はただ、そう命令されてるだけだ」
長年争いごとに関わり続けた私には分かっていた、彼が発言が建前である事を。
彼はどうやら気づかれていないと考えていたようだが、ここはその空気に流されるべきだと年の功が答えを出した。
が、私は彼の真髄を探ろうと言葉を選んだ。
「命令ねぇ、それは愛する王様からの命令かい」
「……挑発のつもりか、ナラヌ・フール」
彼は私の名前を呼び、私はそれに返すように「そんなつもりは無いよ、ハンダトルト・マーゼフ君」と。
「ただ私は、君が何を重んじてこの戦場に居るのか……つまりは本音を聞きたくてね」
口角を少し上げ、瞳を覗いて問う。
彼は失笑し、私の事を睨んで答える。
「オッサン、ナラヌ・フールは噂通りの人間だな、人の心を見透かし何事にも躊躇がない……流石は民の英雄と言ったものか。
オッサンみたいな人間は好きだ、教えてやる。俺の目的、そんなものは無いんだよ」
「目的が無い…それは殺戮を楽しんでいるという意味かね?」
「無論違うな。俺はただ戦わねばならない理由があるだけだ」
「それはそうだろう。私だって無意味に殺戮者に成っているわけでは無い、私は王政のエゴイズムで動く国を変えたいから戦っている」
「俺は、いや政府軍の兵士は王政に人質を取られ戦っている」
彼は涼しい顔で、なんの違和感もなくそう口に出して組んでいた手を組み替えた。
その事実を聞いても、私は驚きはしない。
それを変えようとしているのが我々反乱軍なのだから、それは当然の事だ。
むしろ彼の思考は私のものと似ていたからこそ、私は彼に死期を与えるべきだとすら感じた。
「なら何故私の元に来ない?」
「人が皆、オッサンみたいに強いわけじゃない。俺は逃げ出せもせず戦う方が向いてんだ」
「……ハンダトルト・マーゼフ君。君はジャパンという国を知っているか?」
- 無意義な罰 P2 ( No.5 )
- 日時: 2015/12/19 19:35
- 名前: 自由帳 (ID: eldbtQ7Y)
「おはよう」
彼のクラス、2年X組。
他愛の無い思い入れのない、変哲の無いクラス。
異常は彼一人、夜行性の彼だけがこのクラスで異質な存在として存在し続けていた。
幸いなことにイジメ等は行われず、むしろクラスメイトは彼を守るように、なおかつただの友達と同じように振舞ってくれていた。
彼____俺のクラスを仮にXとしたが、おそらくこのクラスでXが相応しいのは俺自身だ。
「眠たそうだな」、と毎日のように話しかける友人。
「もういい加減慣れたさ」と強がる俺。
実際この肉体が、意識が、この世界に順応する事は無い。一度だって、在ったことすら。
この肉体は一般的なホモサピエンスのそれとは少し違う。それがサイボーグという事ではなく、ただただ違うのだ。
男女の肉体構造が違うように、そんな些細で大きな違いがあるのだ。
「この問題を解ける人」
教師の問に答える者はいない、それもいつも通りだ。
だからこの次の言葉を聞く前に答えを口に出した。
俺は所謂天才らしい。俺からしてみれば天災とでも笑う所なのだが、どうもそれは笑いどころではないらしく、この頭脳は願ってもいない数式の解を口に出すように信号を送る。
- 無意義な罰 P3 ( No.6 )
- 日時: 2015/12/19 23:12
- 名前: 自由帳 (ID: kAWEuRKf)
欠点があるとすれば、視力と適応力だ。
俺は夜にしか生きられない種族の、かつて悠久の夜が存在した時代の遺伝子を保有している。だから今の言葉で表すと「夜行性」が丁度良かった。
だが、実際「夜行性」ではなく「夜行専」の構造なのだ。
俺の遺伝子は太陽の光で大きく劣化する。
その劣化速度は通常のホモサピエンスのおおよそ三倍。つまり俺の肉体と脳は周りの人間よりも三倍速で動いている。
脳に関してはコンピューターにこそ負けるが、少し過去のコンピューターならば同等のスペックを保有している。
そこから分かる、分かってしまう一つの事実。
それは、俺はあと10年もしないうちに身体が朽ち果てて死ぬ。
通常のホモサピエンス以上の老化はしない。
外見は何も変わらず、内部が蝕まれて朽ち果てる。
本来夜に生きていれば、おそらくは通常のホモサピエンスよりも数十年長く生きられると学者は言っていた。
だが俺____彼は、孤独よりも死を選んだ。
- 無意義な罰 P4 ( No.7 )
- 日時: 2015/12/20 00:32
- 名前: 自由帳 (ID: kAWEuRKf)
「帰ろうぜ」なんて肩を叩く友人も。
「おかえり」と笑う家族も。
「ただいま」と返す時間も。
ずっと、周りよりもずっと速く過ぎていく。
夜行性の彼は今日も帰るべき夜に背を向ける。
孤独を拒んだ彼は、自ら望んだ死を恐れて罰を受ける。
無数の矢となって彼を殺す陽の光を待ち望み、また夜に眠る。
彼____俺はまたノートのページを一枚めくりペンを置く。
夜行性の俺の、世界で唯一の彼の物語を。
他人事のように、現実から目を逸らすように書き続け、いつ来るかわからない限界まで続いていく。
無意義な人生でも、無意味ではなかったと思えるように、彼____俺の物語を、俺____彼は書き続ける。
-fin-
- SS 葉月蝉 ( No.8 )
- 日時: 2015/12/20 16:22
- 名前: 自由帳 (ID: kAWEuRKf)
彼女、桑原葉月を殺したのは俺だ。
別に桑原葉月の事を愛してはいなかった。
だからこそ、彼女が死んだ時。彼女が俺の名前を呼んだ時に後悔してしまった。その瞬間に、桑原葉月の存在を大きく感じたからだ。
俺がした事は、刑事罰には処されない。
俺がした事は、彼女の死を見届ける事だけだった。
軽トラックが俺達の運転する車に衝突し、俺達はその下敷きになった。
俺は助かり、彼女は死んだ。
人類単位で見れば、よくある事だろう。
それでも俺は後悔をし、それでも彼女は涙を流し、それでも俺は愛を与えず、それでも彼女は俺を愛し、それでも、それでも、でも、でもでもでもでもでもでもでも……。
数え切れない言い訳の中で、彼女が死んだ日から数日経った日に見つけた。
いつかの夏に鳴くのを止めた、蝉の姿を。
その姿が、今は聞こえない煩わしい声を思い出させる。
____ごめんね……私が悪かった
ミーンミンミンミン
____嫌いだよね、こんな私
ミーンミンミンミン
____殺したいなら、殺していいよ
ミーンミンミンミン
ミーンミンミンミン ミーンミンミンミン
ミーンミンミンミン ミーンミンミンミン ミーンミンミンミン
「……ご、めんなさい、私、死んじゃうみたい……。
最後、まで……ずっと……愛、して……たよ」
最後の言葉を思い出す頃に、俺は蝉の亡骸を地面に埋めていた。
葉月の蝉。
きっと俺より幸せで、あいつより愛された蝉を。
- SiKi-3- ( No.9 )
- 日時: 2015/12/20 21:03
- 名前: 自由帳 (ID: kAWEuRKf)
私は純粋に彼の身の内を知る事を止めた。
このまま聞き出せば、王政の事情を知る機会になった事は目に見えて明らかだったが、私にそれは差ほど重要ではない。
戦場での私は、ただ敵を殺すだけの機械と同じなのだから。
だからこそ今この場での私は、ただのナラヌ・フールとして彼、ハンダトルト・マーゼフと接していたいと答えを出した。
「ジャパン?聞いた事無いな、どこかの独立国か?」
「いいや、過去に滅びた国だよ。私の父がその国を侵略した軍の一員だった」
その国は過去に栄えた、美しき国だったと晩年の父は語っていたのを思い出す。
彼に父の押し売りの知識を、得意気に話した。
「その国には四季という物があったんだ、今となっては昼と夜の判別しか出来ねぇような世界になっちまったが、その時のジャパンという国には、年の中に四つの区分があった」
春。
夏。
秋。
冬。
その全てを語った。
敵対した者同士という肩書きを忘れ、ただただ青年と老いぼれの、2人の人間として。
2人の戦士として、かつて存在していた四季についてを語った。
夜が開ければ、また殺し合う2人はただただ語り続けた。
戦争の在り方。死期を与える所業。死への恐怖。戦いの意味。
「なぁ、もし仮に俺が革命軍に居たら...俺の運命は変わっていただろうか」
「分からんな、我々はただ自分にとっての正義を追い求める種族なんだ。形は違えど何れこうなっちまうんだよ」
「なら、俺は来世でもまた武器を取ってオッサンを殺してやる」
「私は殺されるつもりは無いがね、ハンダトルト・マーゼフ君。君と話せたことはいい機会だった」
夜が開け始めていた。それは即ち、この空間の終焉を表していた。
彼はハンダトルト・マーゼフではなく、政府軍の頭に。私はナラヌ・フールではなく、革命軍のリーダーとして、再び数時間後には弾丸と死体だらけの戦場で殺し合うのだ。
例えここで彼との友情と呼べる代物が生まれていたとしても、そうするのが通りなのだ。
誰が決めたわけでもなく、当たり前のように。
それが戦なのだろう。
理由なんて、理屈なんてなく殺し合う。
存在しない平和のために戦っているのか、はたまた私も私でエゴイズムで戦っているのか。
「またいつか君と、肩書き無しで語れる日が来る事を願っているよ」
私は彼の体を抱き、これからまた敵となる彼に笑う。
夜が開け、きっといつか願った日が来ると信じて私は再びトリガーを引く。
「革命軍-SiKi-リーダー、ナラヌ・フール。私は革命軍として貴様を________
-SiKi-
- 雑記 ( No.10 )
- 日時: 2015/12/25 19:50
- 名前: 自由帳 (ID: kAWEuRKf)
年末年始は更新が疎かになると思います。
依頼されたシナリオを書かなければならないので……
そのシナリオの方も、ノベライズにして投稿します
- Re: 短篇集、Monochrome《無意義な罰-完-》1 ( No.11 )
- 日時: 2016/01/23 23:48
- 名前: 自由帳 (ID: kAWEuRKf)
最近更新していませんが、更新停止したわけではありません。
ちょっと別の依頼があったため、そちらを優先しております。
少ししたらここにまた帰って来ます。その時は短篇を抱えて……
話は変わりますが、リア友との合作漫画を描いています。
僕が原作を、彼が漫画を。
絵が上手いわけでも、原作がいいわけでもない作品ですが、いつか投稿できたらな、と思っています。
そちらの原作、僕の書いた小説も出来次第、このmonochromeのうちの一つとしたいと思っています。
では、そう遠くない未来でまた