複雑・ファジー小説

Re: 非日常の日常 ( No.15 )
日時: 2016/01/25 23:34
名前: ろろ (ID: HSAwT2Pg)

「少し昔話をしようか。あるところに少女がいた。とてもとても山奥に、だ。その少女が住む集落には意味もない、とんでもない言い伝えがあった。『ある血筋のものには鬼の血が流れている』と。その者に当てはまったのはとても綺麗で美しくて脆くてかわいい少女だった。腰まで伸びた黒い髪が綺麗な少女だった。その少女は毎日のように集落の者から蹴られ殴られ踏まれ蔑められ嗤われ物のように扱われた。その集落のもの全員にあるものがこう聞いた。『あの建物に住んでいる少女は誰ですか』人々はこう答えた『あれ? あれは鬼だ。』『お母さんは?』『母など子を生んでから4年たったあと衰弱して死んだ』『ではその子はずっと一人で生きていたのですか?』『そうだ』全部が全部その答えだった。狂っていた」
 私は話す。話したくもない辛い少女の過去を。目の前の少女の顔は悲しさで歪み始めている。しかし私は、正確に言うと誰かにやつられている私はこの口を止めようとしなかった。話を続ける。
「ある日その少女は人目を盗んで外に出た。外に出るとあるところにピンク色の髪をした女の人を見つけた。女の人はこう言った。『敵に追われている。助けて』と。少女は助けてあげた。現実逃避として。そして、不思議なことが起こった。怪我が、人々に蹴られ殴られ踏まれ負った怪我が、治っていた。信じられなかった。でも、それは続いた。そしていつの日か少女は気付くのだった。助けていたのはピンクの髪をした女性、姫様だけではないのだと。あと2人、妖精という存在を助けていたのだと。そして怪我を治していてくれたのはその2人なのだと」
「・・・・・・・・・・・・」
「ん? どうしたの雪」
 雪がとても穏やかそうな顔をしているので操られている私は首をかしげる。
「いや、随分と懐かしい話をするなと思って」
「何となくだよ」
「そうか、でもおかしいな私が知っているエルは過去は振り替えるような子じゃなかった気がするんだが」
 !! 雪!! 気付け! 気づいて!!
「そうだっけ? でも300年もすれば性格なんて変わるよ」
「まぁ、いいや、続けて。はしおって」
 しれっと注文だすのは雪らしいな。でも気づかないのか。辛いなこれは。
「いいよ。じゃあ少しざっくりとするか。その妖精の一人が闇サイドに拉致られたところから」
「結構端折ったな」
「いいじゃない。じゃあ始めるよ」
 私はまた、話したくもないことを話し出す。いい加減助けて。
「その妖精が拉致られたのはある目的があったからでした。それは手駒にすること。仲間にすること。そうすればこちらの戦力は一気に上がる。そして少女はその動きに気づき、止めようと妖精を説得した。そして妖精は踏みとどまった。はずだった。しかし妖精は闇に落ちた。何故って? それは一番仲の良かった少女が死んだから、もう生きる意味が無いと思ったから。というのは嘘で辛くて空白になった心を闇に漬け込まれたから。はは、バカだよね」
 成る程。そして、
「そして、姫を殺した。すごかったよ、楽しかったよ、面白かった。姫をこっちサイドにはできなかったが、やっとわかった、姫の生まれ変わり、だから、こっちへ来て、雪」
 なるほど。
「なるほど」
 雪が笑った。面白そうに、私の背筋が凍るほどに。雪は美しく笑うのだった。