複雑・ファジー小説

Re: ROCK IN ECHO!! ( No.23 )
日時: 2016/03/16 17:39
名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: XnbZDj7O)
参照: ももこ「家でごろごろしてる方が好き。遊びに行く友達なんて空と香美波くらいしかいないわ」

【Subterranean/八乙女有栖】
18◆異変
 困ったことが起きちゃった。葵ちゃんとケンカした。琴也は別にどうでもいい。御影ちゃんは葵ちゃんを探しに行った。一人スタジオに残った蓮太と私は、どうしていいかわからずに黙っていた。

 「......葵ちゃんが提案したあの服より、こっちの方可愛いよ。 サブタレらしいとか、らしくないとか、どうでもいいじゃん。私たちはサブタレなんだから、それにらしいとか、らしくないとか無くない?」

 葵ちゃんが提案した新しい衣装は、従来のサブタレの衣装にゴシック要素を少し加えたモノトーン調のドレスだった。私は、たまには派手なのも着たいと思い赤や白の豪華なワンピースを提案した。花筏夜想曲さんっていうバンドがあるみたいだけど、あんな衣装を着てみたい。ていうか、サブタレはいつまでCOMME CA ISMの店内みたいな葬式っぽい服着るの? 

 「俺は葵に賛成だけどな......赤白歌合戦じゃないんだからさ」
 「蓮太までそんな事言うの!? バンドに誘うんじゃなかった!!」
 「そこまで言うのかよ!」

 こんな時は甘いものを食べるに限る。サブタレ共用冷蔵庫には、葵ちゃんと御影ちゃんが持ってきた甘いお菓子が沢山入っている。私はそれを勝手に食べることによって、自分のフラストレーションを解消していた。だから今回もスイーツを食べたら落ち着くかもしれない。冷蔵庫の中にあった美味しそうなコンビニスイーツを取り出して、プラスチックのスプーンを開けた。

 「何見てんの?」
 「去年の夏フェス。勉強になる」

 プリンを食べながら蓮太の方を見た。
 蓮太は緑のソファーに座って、訳の分からない大きなタブレットを取り出して、動画を見ている。こいつは機械にやたら強い。もしバンドをやってなかったら、電気屋さんで電化製品とか売ってそう。家電芸人ってやつ? 

 「夏フェスかぁ! あれは楽しかったなー客のノリも良かったし!」
 「......まぁ、あれは楽しかったな」

 いつもツンツンしてる蓮太でさえこんなことを言うのだから、あのステージは本当に良かった。サブタレが一番カッコよかったって今でも思ってるしね。他のバンドなんて私に言わせれば、「今どき、まだギターなんか使ってるの?」って感じだもん。日本にはまだサブタレみたいなバンドは少ないから、売上は全部独占。そのお金でまた、可愛い衣装をたくさん作れる。

 「......あ、そうだ!」
 「いきなり大声出すなよ......」

 私は葵ちゃんがデザインした衣装の原案が書いてある紙をつかんで、机に押し付けて、赤色のマジックペンの蓋を開けた。
 モノトーン調のドレスに、一つだけワンポイントで赤を入れたらお洒落だ。ピアスでも帽子でもなんでもいい。黒と、白と、赤。トランプみたいで、すごくかっこいい。これなら今までのサブタレらしいし、私が望んでいた派手さもある。すぐに写真を撮って、葵ちゃんにラインで送った。

 「蓮太、これ!!どうかな?」
 「......いいんじゃね? あとは葵次第だな」
 「絶対気に入る! やっぱ私って天才なんだよ!!」

 メディアではよく、「天才」と呼ばれて売り出されることが多かったが、ピンと来なかった。日本にないジャンルのロックをやり始めただけで、天才って呼ばれるなんて。でも私は、よく考えると服飾デザインもステージパフォーマンスも担当している。曲作りは蓮太に任せてしまうこともあるけど、ここまでの事を一人でやっているアーティストって珍しいんじゃないかな。曲も衣装もステージも作るって、TOKIOとサブタレくらいじゃない?

 「アリスちゃん! あの衣装めっちゃいい! あれでいこう!」
 「......御影も、あれがいいと思うな」

 意外と近くにいたらしい、五分もすると葵ちゃんと御影ちゃんは帰ってきた。あとは作るだけ。さっそくサブタレスタッフの愛沢さんに連絡した。思い立ったが吉日、善は急げというものだ。