複雑・ファジー小説
- Re: ROCK IN ECHO!! ( No.24 )
- 日時: 2016/03/17 21:01
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: rBo/LDwv)
- 参照: 空「たまには俺達で曲を作ってみたいんだけどな。プロデューサーは頭が硬いんだよ」
【ROCKIN ECHO/春島征一】
19◆後輩
激情派とよく呼ばれる。世間はECHOをサブカル系だとか、僕がメンヘラだとかで一括りにしようとする。どっちかっていうと誰とでも寝るゆゆちゃんの方がメンヘラだし、メンヘラに手を出す小川くんも駄目だと思うし、サブカルって枠に収めるにはECHOはメジャーになりすぎた。それに加えて、有名になるにつれて、僕は別に悪くないのにボーカルの僕だけが「これだからECHOは」と言われることが増えた。これは大変な問題だと思う。こんなんだから、僕らは後輩のALTER ENEMYにライブのチケット販売数で負けるのだ。
「......どうする?」
「どうする、じゃねえよ! 俺達より若い奴らに追い越されたんだぞ! 俺ケイオー大に戻ろっかな!」
「いいじゃん。あみゅがるみたいにアイドル的な可愛さをウリにしてる訳じゃないし、年齢なんてどうでもいいよ」
居酒屋BIGには僕達しかいない。僕らがあまりにも暴れるからみんないなくなってしまったんだと最中は言うけれど、それは流石に言い過ぎだ。今日は月曜日だから、あまり飲みに来る客もいないのだ。僕らが悪いわけでは決して無い。壁にかけられてだんだんホコリをかぶってきた、ECHOのサインを見る。
「アルエネって、ちゃんとしたバンドじゃーん。ECHOさんとはちがってさ」
さっきから浴びるように飲んでいる平ポンの瀬佐さんが言う。じゃあECHOは普通じゃないのかよ、と最中は酒に焼けた声で言い返す。
最中が居た「キャタピラーズ」は、ECHOよりもメジャーを意識した正統派なロックをやるバンドだった。ドラムの男がテレビに出てた人と不倫してそのまま解散してしまったが、当時のedgeくらい人気があったバンドだったと思う。
僕はというと、「自由区」という売れる気配もないバンドでボーカルとして使ってもらっていたけれど、ある日突然香絵子さんが後ろの三人を引っさげてスカウトしに来たので、なんのドッキリかなと思いながらも承諾して、今に至っている。自由区が今何をしているかはわからない。ネットで連日叩かれている僕らを見て笑っているだろうか。
「ところでさぁ、平ポンってどうやってあのメンバー集めたん? 積んできたキャリアも音楽性も違う五人、って面でECHOと平ポンは似てるじゃん。教えてよ瀬佐くん」
「そっちとほとんど一緒。エミちゃんとは大学の時初めて会ってバンド組んで、何人か入れ替わりはあったけど、あの子の独断と偏見で最終的に残ったのが今の五人ってわけ」
瀬佐さんはそう言うけど、違和感がある。瀬佐さんは、話すのがおっくうだから長い話を無理やりまとめてしまったかのように思えた。
「......つって、実は瀬佐さんが平ポンのリーダーって説も見たことあるぞ。エミちゃんは平ポンの二代目ボーカルだってな。先代の頃の音源は全然出回ってないから、コアなファンだけが知ってることなワケだけど」
僕が疑問を抱いたままシーザーサラダを食べていると、他バンドに詳しい最中がそんなことを言いだした。僕も知らなかった、てっきりエミちゃんが立ち上げたバンドなのかと思っていた。
「あー、それデマだって。エミちゃんはあの中でも最古参。俺ちゃんがその次、次に一嶺くん、霞ちゃんと貴臣くんは、わりと最近の人」
「マジで!?」
三人の声が揃う。瀬佐さんは、ほんとみんな息ぴったりだねえと言って全然甘くなさそうな酒を飲んだ。
「ところで、最近のECHOの曲って、なんってゆーか、The Offspringみたいだよねぇ。俺ちゃん初期の感じ結構好きだったのに、どうしちゃったの?」
「みんなのやりたい音楽をまぜこぜにしたらこうなったって感じ」
僕はオルタナティブがやりたくて、最中はヒップホップが好きで、小川くんはクラシックが得意で、ゆゆちゃんはビョークばっかり聞いている。それを香絵子さんがうまくまとめて今のECHOが出来た。初期はニルヴァーナのコピバンだなんだといろいろ言われたものだが、最近は僕達独自のものを作れてきてると思っていたんだけどな。まだまだみたいだ。
「平ポンはいくら売れてきても昔のままのノリと音楽で突っ走ってるからすげぇよな。売れてくると、どうしても大衆ウケを狙っちゃう俺達からしてみるとさ」
「初期からのファンを逃がすようなことはしたくないからねー」
平ポンはファンのマナーがいい事でも知れている。初期からのファンというと、物販やCDを買ってくれたりライブに駆けつけてくれたりする熱心なファンたちのことだ。ECHOはみんなこんなんだから、小川くん目当てのミーハーそうな女の子やゆゆちゃん目当てのアイドルオタクみたいな人たちは序の口、ビジュアル系バンドかと見間違うほどのメイクの人や香絵子さんを信仰する謎の団体なんかも居たりして、なんか変な感じのファン層を獲得している。edgeやサブタレ、花筏には女子高生もたくさん来てるみたいで、正直少し羨ましかった。
「あー、女子高生のファンを獲得するバンドになりたかった。死のっかなー」
「はいはいメンヘラおつかれ」
食べ終えた焼き鳥の串を皿に並べる。吐いたタバコの煙が上っていく。
僕らがこんなにも堕落したバンド生活を送っている理由のひとつとして、少なからず同じレーベルの後輩「ALTAR ENEMY」の存在があるだろう。彼らは僕らよりも後に同じレーベルに所属したのに、ECHOを追い抜いて今やサブタレや花筏と肩を並べる中堅バンドになっていた。ECHOや平ポンも中堅どころといえばまあそうなんだけど、彼らに比べればまだ知名度は劣るような感じで、それがまた嫌だった。
「俺ちゃんそもそもアルエネさん知らないんだけど、どんな感じなの?」
その問いに、小川と最中は答えようと二人で話し始めた。これは長くなるだろうと思いながら、僕は新しいタバコに火をつけた。時計を見ると、まだ午前0時だった。