複雑・ファジー小説

Re: ROCK IN ECHO!! ( No.28 )
日時: 2016/03/29 13:58
名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: pGaqjlta)
参照: 御影「最近は花筏が気になってるの。華やかできらびやかで、とっても素敵だよね」

【平成ポンデライオン/野田原エミ】
23◆劣等
 最近なんかカツカツしてないか、と高橋くんに言われてやっと気がついた。俳優業もこなしている彼だから、人の心境の変化には気付きやすいのかもしれない。私は、edgeの前座を獲得したECHOに嫉妬していた。

 なんでECHOなんだろうって何度も思った。edgeが前座に誰を呼ぶのか、って話は、今までにバンド内外で何度もしてきたけど、どうせ、サブタレかアルターエネミーあたりになると思っていた。前にedgeの鍛冶屋さんがサブタレを褒めているのをギター雑誌で見ていたし、三岐原くんがアルターエネミーを褒めているのもラジオかなんかで聞いた。なのにどうしてECHOが選ばれたんだろう。平ポンが呼ばれないのは最初からわかっていたけど、それってECHOも一緒じゃないのかな。ECHOは最近またスキャンダルが出てきた気がするし。ネットでは春島くんがクスリやってるとか言われて叩かれてるし、ゆゆちゃんは大学を卒業したらすぐ結婚するのではないかと噂が立っている。小川くんだって今度は桜田みゆきの弟子である若い子に手を出したってセンテンススプリングに載ってた。バンドマンと付き合うべきじゃないっていうのを久しぶりにわからせてくれるような立ち位置だったECHOが、なんでedgeの前座として大舞台に立てるのよ。このまま一緒にサブカルフェスで活躍するような関係でいたかった。私たちだけ置いていかれるようで、本当は嫌だった。

 「あーあ、ECHO遠くに行っちゃったねー」
 「......私、あんな大舞台に立つと恐縮しちゃうから今のままでいいや」

 帰り道。ふと呟いた言葉に、霞がこう返す。今日の深夜番組の収録で、簡単なお菓子を作った時、霞が作り上げた謎の物体は、今後罰ゲームで食べさせられる定番となるだろう。スタッフさんもその酷い出来には感動すら覚えていた。でも、不器用なりにギターと音楽を真面目にやってきた霞は今や一流のギタリストだ。

 「みんなを大舞台に立たせられないの、リーダーとして申し訳ないなぁ」
 「何もedgeの前座だけが大舞台じゃないでしょ? 落ち込むくらいなら、夏フェスに向けて練習増やしていこうよ」

 後ろから瀬佐くんがひょっこりと顔を出す。慰めの意なのか、手にはパインアメが握られていた。ありがとう、と私はそれを受け取る。

 私にはこんなに素敵なメンバーたちがいるのに、今更何が足りないのだろう。パインアメを舐めながら笑う。そういえば朝縹くんは、飴をすぐに噛んでしまう子だった。瀬佐くんがあげたパインアメも、もうなくなってしまったかもしれない。

 「朝縹くん、飴まだある?」
 「うんにゃ、もうないよ。噛んじゃった」

 仕方ないなぁ、と私は笑う。私が昔通っていた駄菓子屋に寄って帰ろう。もうすぐ、この街にも春が来るだろう。