複雑・ファジー小説

Re: ROCK IN ECHO!! ( No.32 )
日時: 2016/05/05 01:03
名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: K/8AiQzo)
参照: 霞「たまに、昔のギターの方が好きだったって言うファンがいるんだけど、どういうことなんだろ?」

(ロックは死んだと誰かが言った◆2)
 ジャズが死んだらしい。
 もっとも、ジャズというのは音楽のジャンルのことではなくて、有名な音楽プロデューサーの青木音蔵さんの飼い猫の名前なのだが。

 「猫が死んだくらいで、大規模に送別会することもなくなーい?」

 昼下がり。平成ポンデライオン。私。隣でサイダーを飲んでいた霞に問うと、彼女も私と同じ意見だったようで、

 「そうそう、ほんとそれ。お偉いさんってなんか緊張するから嫌いなんだよね、葬式ってなればもっとマナーとか気にしなきゃいけないしさ」

 と面倒そうに言った。
 確か、アルターエネミーあたりには猫好きな子がいた。その子は誘われたら行くだろうけれど、正直私は青木さんの猫に会ったことも無いし、どちらかというと犬派だから霞同様気乗りもしない。
 多分これをほかのメンバーに話したら、瀬佐くんは「いーじゃん、お酒も飲めるし美味しい料理出るし」と楽観的に言うだろうし、高橋くんはこっち寄りで、「それに行くくらいなら家でB級映画でも見てた方がまだマシだ」と言うだろうし、朝縹くんは「楽しそうだから賛成!」ってはしゃぐだろう。葬式だから楽しくないよと私が言っても、朝縹くんは結局何でも楽しくしてしまうから結果オーライというやつだ。

 ところでこの送別会って、みんな呼ばれてるのかな。
 一度青木さんと会っただけの平ポンが呼ばれているということは、edgeはもちろんのこと、ECHO、あみゅがる、サブタレ、アルターエネミー、花筏、その他もろもろもきっと呼ばれている。なんか、夏フェスみたいなラインナップだ。猫だけでedgeを呼べるなんて凄いなあと私は思いながら、霞と同じ味のサイダーをストローで啜った。

 数時間後。ファッション雑誌のインタビューを受けていた瀬佐くんと、今度のドラマの打ち合わせをしていた高橋くんと、そのへんをジョギングしてくるつもりが間違って電車に乗ってしまってプチ旅行をしてきた朝縹くんがスタジオに揃ったので、例の話をすると、やっぱりさっきの予想通りの反応を、三人とも見せた。ひとつ違ったのは、朝縹くんにはきちんと死生観があって、そっか、青木さんの猫かわいそうだねって言ってたこと。

 「しかし、紛らわしい手紙だな。これだとロッキンエコーあたりが、『ロックは死んだ』的なノリだと勘違いして今頃騒いでたりしてな」
 「えー、そうかな。ECHOは意外と高学歴揃いだし。それはないよー」

 興味がなさそうに手紙を見ながら言う高橋くんと、その背中をポンポン叩きながら、後ろから手紙を覗き込んでいる朝縹くん。
 KO大医学部中退の最中くん、紅山学院大卒の小川くん、フェイリス女学院在学中のゆゆちゃんは確かに高学歴かもしれないけど、香絵子ちゃんは高卒だしハルシィに至っては中卒なんだけどな。ていうか、この話に学歴は関係ないでしょ。

 「ジャズが死んだ、ねえ」

 瀬佐くんがぽつりと呟いた。
 大学の頃、瀬佐くんはジャズのサークルを掛け持ちしていたらしい。そんな彼が言うには、「ジャズはこれから派遣を握るかもね」だって。
 ロックバンドは、edgeだけが飛び抜けて人気で、その後ろにECHO、アルエネ、サブタレ、花筏あたりが居て、あみゅーず・がーるはどちらかというとテレビタレント寄りで、平ポンはまったく違う世界観を形成している。
 そんな淘汰されたような音楽業界で、本格的なジャズをやり始めた、「WONTED」っていうバンド。これからはこのバンドが流行るらしい。

 「......そのうち、ロックは死んだなんて言われて、ロックの送別会なんてのがあるかもね」

 サイダーを飲んで、外を見る。人でたくさんの、灰色の五月。これからの収録が終わったら、またみんなそれぞれの仕事へ向かうのだろう。
 昼下がり、時間はゆっくりと流れていく。