複雑・ファジー小説
- Re: ROCK IN ECHO!! ( No.6 )
- 日時: 2016/02/21 08:10
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: MGziJzKY)
【ROCKIN ECHO/春島征一】
◆5 ある休日
「あー!! この世のリア充全部大気圏の彼方に消えてかないかなー!!!」
居酒屋で八乙女有栖ばりの奇声を上げている最中を無視して、僕は何杯目かも忘れた生ビールを思いっきり飲み干した。喉元が熱くなって全身に炭酸が駆け巡る。これは完全に明日は二日酔いだな、明日は新宿でライブがあったけど、まあいいや。レディーガガだってステージで吐いてるし。
ゆゆちゃんと香絵子さんは二人で飲み潰れて、手当たり次第に店の中の男の人に声をかけている。普段なら注意しに行くところだけど、立ち上がるとふらふらするからやめた。小川くんがなんとかしてくれるだろう、そう考えてテーブルにつっ伏す。あぁ、酒はもう一生飲まないと、この前三日酔いまで持ち込んだ時に決めたのに、焼き鳥の誘惑にやられてまた飲んでしまった。僕は本当に意志が弱い。
居酒屋のテレビにはedgeが映っている。確かボーカルの三岐原くんのお母さんは元アイドルだし、ドラムの柊くんのお父さんはあの有名なドラマーの柊さんだ。結局血筋がものを言う。パートの母とパチンコに溺れてまだ借金を背負っている父の元に生まれた僕が、ビッグになるのは難しい。最中はROCKIN ECHOに全てを賭けて、ケイオー大学の医学部を中退した訳だけど、そんな吹っ切れた賭けをしてもなお売れないのだから、人生はうまく出来ていない。
酒くさい息を吐いた。本格的に気持ち悪くなってきた。トイレまで向かうのもキツそうだ。まあいいや、この前飲みに行った平成ポンデライオンのエミちゃんは、飲み潰れてメンバーの朝縹くんに迎えに来てもらっていたし、僕もいざとなったら小川くんになんとかしてもらおう。タクシー代くらいは持ってた気がする。
隣の最中が世界の終わりみたいな顔をして、美由希、美由希と助けを求めるように呻いている。彼は高校の時同級生の美由希という名前の女の子と付き合っていたけど、ケイオー大を辞めた時に「バンドマンなんて先行き暗いし」とあっけなくフラれてしまった。あれから二年くらい経つんだっけ。いい加減忘れればいいのに、最中は酔うたびに美由希の名前を呼ぶ。
ゆゆちゃんは誰と付き合っているのかわからないし、香絵子さんは男よりバンドって感じだし、そもそもバンド内で恋愛なんてしたらほぼ100%事がこじれて解散する。この前最中と小川くんと話したのは、ガールズバンドのあみゅーず・がーるが丁度三人だから、俺達で総ざらいしようぜなんて事だったな。僕は気が強そうな空さんが好きで、小川くんは女の子らしくて可愛いももこさんが好きで、最中は話してて楽しそうな香美波さんが好きだったから、争いになることもない。
「最中、提案があるんだけど」
「なんだよ、どーせまたくだらないことだろ?」
「違うよ。今度、あみゅーず・がーると合同練習しようよ。メンバー三人ともツイッターで小川くんのことフォローしてるから、小川くんに頼んで練習取り付けてもらお」
だから、もう美由希のことは忘れなって。もともとあんま可愛い女じゃなかったじゃん。そう言って最中の背中をぽんぽん叩くと、吐くからやめろと言われたので、慌てて手を離した。
「どう?」
「どう? じゃねーよ、そう盛んなって。あみゅがるは、俺達じゃなくて小川をフォローしてるんだぞ? 俺達があんな上層階級の女に相手にされるわけないだろ」
「そうかな。小川くんじゃなくても、ゆゆちゃんとかはファッション雑誌に出るくらいだから、あみゅがるの子達も興味あると思うんだけどな」
酒に酔って呂律が上手く回らない。酒のせいで気が大きくなったのか、今ならあみゅがるなんて全員まとめて抱ける気がしてきた。
「はー、これだから童貞の妄想力は恐ろしいわ。勝手にすればいいんじゃね、俺は断られるに2千ペリカ賭けるけどな」
「そうそう、その意気だよ」
最中は相当酔っている筈なのに、ビールを飲む手を止めない。飲んでもいないとやってられないということか。かく言う僕も何杯飲んだか忘れるくらいには飲んでる。この前生放送に出てちょっと稼いたギャラも、今日一日で吹き飛んでしまいそうだけど、また稼げばいい。
「まあ、期待してなよ。僕があみゅがるとの約束、なんとかして取り付けるから」
後に僕は、酔った勢いでこんなことを言ってしまったことを後悔することになる。女性経験のない僕が、あみゅーず・がーるの可愛い子三人相手に何かを頼むなんて、ほぼ無理に近いことだった。