複雑・ファジー小説

Re: ROCK IN ECHO!! ( No.7 )
日時: 2016/02/21 21:56
名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: rBo/LDwv)

【あみゅーず・がーる/矢羽田ももこ】
◆6 誘い
 「ねえ、ROCKIN ECHOってなんだっけ」

 最近ついに公式アカウントになったツイッターに届いた通知を見て、はてと思った私は香美波に聞いてみた。すると香美波は、「ももこちゃん、ミュージシャンなのにECHO知らんのか?」と大きな狐目をさらに見開いている。私はもともとアイドル志望だったから、AKD48とかアフタヌーン娘については詳しいのだけれど、ロックバンドに関しては無知同然だった。前に共演したedgeは、有名だしカッコよかったから覚えてるけど、そんないきなり無名のバンド出されてもねえ。
 香美波はアサイー味のジュースを飲みながら言った。

 「ECHO、最近CMにタイアップ決まったやん」
 「んー、わかんないや。空にも聞いてみるよ」

 これから私達あみゅーず・がーるは、バラエティ番組の「エリンギの気持ち」の収録がある。打ち合わせを終えて、今は楽屋でのんびりとしていたのだけれど、気分屋でマイペースな空は「そうだ、せっかくここまで来たから家族にお土産買ってこないとな」と外へ出かけてしまったのだ。ファンに囲まれでもしたら、どうするつもりなんだろう。まあ、空のことだからうまく抜け出してくるとは思うけど。
 話を本題に戻す。突然届いたダイレクトメールと、ECHOっていう謎のバンドの話。私はシュークリームを口に運びながら言った。

 「それでね、香美波。そのECHOってバンドから、合同練習しませんかって来てるんだけど」
 「そうなん? んー、ECHOかぁ」

 香美波は悩んだように手を顎に当てる。

 「ECHOって、音楽のジャンル的にウチらとは全然違うはずなのになぁ。なーんか裏があるような気がするんよ」

 紫がかった髪をポニーテールにしている可愛らしい見た目に似合わず、香美波は意外と賭け事なんかでは一番強い。きっと人の心情を読むのが得意なんだと思う。そんな香美波が言うのだから、私もなんか怖くなってきた。ECHOをネットで調べようとしたけど、今月はツムツムをやりすぎたせいでスマホの読み込みがめちゃくちゃ遅い。

 「ねえ、香美波はこれ、どういうことだと思う?」
 「スパムメールの類やな」

 だよね、やっぱり。こういうのは無視するのが一番なのよ。心配して損したわ、と香美波と一緒に笑う。あとでたこ焼きでも食べに行かない? なんて話をしていたら、観覧車をモチーフにしたお菓子を買ってきた空が帰ってきた。おかえりと声をかけあって、楽屋のパイプ椅子に腰掛けた空にもこの話をすると、空はECHOというバンドに好意的な感情を持っているらしい。長い黄緑色の髪をかき上げながら言った。

 「いいじゃん、合同練習。俺ECHOの香絵子と知り合いだし、賛成だけどな」

 空は男勝りな性格で、自分のことも「俺」と呼ぶけれど、実は可愛いところがあるのを私は知っている。あみゅがるの実質的なリーダーは私だけど、空の方が統率力があるし、ファンからの人気も高いから、大事な選択になると私は空に頼りがちになっていた。しかしそれとは逆に、香美波は誰であろうと自分の意見はしっかり言うタイプだ。

 「空ちゃんが言うなら、ウチも賛成したいけど......ECHOって、今調べてみたら男の方が多いバンドやん。誘ってくるなんて、下心が見え見えやない?」

 慎重派の香美波は、紫色のスマホ片手に心配そうな顔をしている。そういえば、香美波もツムツムをやっていた。私よりランキングが高いのに、まだ通信制限されてないあたり、香美波はスマホを使うのが上手いな。
 香美波に見せてもらったのは、ROCKIN ECHOのホームページ。見るからに女性経験が無さそうなボーカルと、マッシュヘアのサブカル系なギターと、アイドルかと思ってしまうほど可愛らしい童貞ウケしそうなベースと、モデルみたいな金髪のドラムと、やたらかっこいいキーボード。あ、思い出した。これ、小川徹明くんがいるバンドだわ。
 この前見たファッション雑誌に載っていた小川徹明くんがバンドマンだったことは知ってたけど、まさかこんな無名のバンドにいたとは。てっきりサブレタニアン? サブタレニアン? に居ると思ってた。けど、わからないものだなぁ。千年に一度の美少女は名前が知れてるけど、千人に一度の美少女が在籍しているアイドルグループはまったく人気がない現象のようなものかな。
 彼のプラチナブロンドの綺麗な髪に、180センチを超える長身、そして甘い雰囲気を持つ整った顔立ちは、今や芸能界で引く手多数らしい。そんな小川くんに私も興味を持っていたから、ツイッターをフォローしていた。その小川くんと一緒に練習ができるのって、結構いいと思うんだけどな。空と香美波にこれを話すと、「ももこはホント、イケメン好きだからね」と呆れられた。

 「たしかに小川くんはイケメンやけど、これはなんかの罠だったりしないやろか」
 「香美波は心配性だな。俺の知り合いもいるし、久しぶりに会いたいから行こうぜ」

 二人は買ってきたお菓子を食べながら話し合っている。香美波は不安そうな面持ちで、空は楽観的な声色で。しばらくして、二人が出した結論は、

 「ももこが決めなよ」

 だった。人の意見をなるべく尊重したい香美波と、面倒くさがりで細かい話し合いを好まない空で意見が食い違うと、たいていの場合、決定権は私に来る。二人の意見をうまく組み合わせて、私は二人にある提案をした。

 「じゃあ、こういうのはどう? 合同練習には行くけど、私たちの他にもう一つバンドを呼んでもらう」

 納得したように笑う空と、それええやんと手を叩く香美波。これで決まりだ。私は速度制限になって動作が遅いスマホで返信し、残りの時間は三人で打ち合わせ内容の確認をすることにした。