複雑・ファジー小説

1-1 ( No.1 )
日時: 2016/02/24 01:21
名前: クリオネ (ID: 6afFI3FF)

 何をどう間違ったらこんなことが起こるのか。今から五秒前まで、俺は自宅で新作のゲームをやろうとしていたはずなのだが、何故か俺は青空の下、道のど真ん中に座り込んでいた。
 石畳で造られた道を挟むように、両サイドに露店がずらりと並んでいる。市場は大勢の人で賑わい、行き交う人たちは皆、西洋人に見えた。
 俺が持っているものはスマホと、今かけている黒縁メガネだけ。普段、困ったことが有れば便りにしているスマホは、何度電源ボタンを押しても真っ暗な画面が表示されているだけだった。



 今日は次世代機対応の新作ゲーム『フロンティア』の発売日だった。
『フロンティア』は発表当初から、綺麗なグラフィックが注目を集めていた新作RPG。透き通る水、揺らぐ炎、モンスターの質感、全てがリアルで俺の中のゲーマーの血が騒ぐ。
 そして迎えた発売日当日の午前八時、ようやく俺の手元にこのゲームが届いた。
 本来ならば学校にいるはずの時間だが、発売日からこのゲームのスタートダッシュを決めることは、俺にとって学校よりも大切なことなのである。

「あ、もしもしリク? 今日学校来ないの?」

 ゲームを始める準備をしていると、同級生のアズサから電話がかかってきた。
 アズサとは小学校からの幼なじみで家も近く、俺が学校を休むとこうして電話をかけてくることがある。お人好しと言うかお節介なところもあるのだが、これがこいつのいいところでもある。

「今日は朝から調子悪くて……」

「ゲームするつもりでしょ」

 アズサは初めから俺が高校を休んでいる理由をわかっていながら、電話をかけてきているようだ。電話越しに彼女の深いため息が聞こえてくる。

「とにかく今日は忙しいんだよ。学校行ってる暇無いの」

 アズサをあしらいながら、『フロンティア』を起動した。テレビ画面にゲームタイトルが映し出されると、タイトルの下に「press start」の文字が浮かび上がる。

「毎日ゲームばっかり……。明日も来なかったら、ノート貸さないからね」

「ごめん! 明日は必ず行くから!」

 初めから本当に学校を休むのは今日一日だけのつもりだった。また明日から頑張ればいい、今日はこいつを遊びたい。俺はコントローラーのスタートボタンを押し倒た。