複雑・ファジー小説

1-4 ( No.6 )
日時: 2016/02/25 01:40
名前: クリオネ (ID: .7qV.whT)

「いきなり何のつもりだ!」

 金縛りが解けたかのように俺の体は動きだし、慌てて悪魔を引き離す。
 喜ぶべきことなのかもしれないが、あまりに突然の出来事であったこともあり、反射的に離れてしまった。
 少女は再び不敵な笑みを浮かべる。

「お主に私の力の一部を与えてやった。本当に私を助ける気があるのなら、その力で私を守って見せよ」

 そう言った彼女の髪の色は抜け落ちて白く、瞳は赤から黒に変わっていた。

「力ってどうやって使うんだよ……」

「貴様、悪魔に魂を売ったか! 」

 隊長は鎗の矛先を俺と、俺の背後にいる悪魔に向ける。
 魂を売ったも何も、向こうが急に仕掛けてきたのだ。

「知るか! こいつが勝手に! そもそも何でこいつを狙うんだ。こいつがお前たちに何かしたのか?」

「悪魔は存在そのものが罪。魂を売った貴様もまた同罪! 死をもって償え!」

 この世界で悪魔崇拝は法で禁じられていると、ダズさんが言っていたのを思い出す。何だかよくわからないうちに俺は犯罪者になってしまったらしい。
 何一つ武器を持たない俺に対して、隊長は容赦するつもりはないようで、鎗を構えてこちらへ一直線に向かってくる。

「右手を奴に向けて、次の言葉を詠唱するのだ……」

 悪魔は背伸びをして、ある言葉を俺の耳元で囁いた。
 
「……これ本当に言うの?」

「そうだ。私を信じろ」

 あまり長い言葉ではないため一度で覚えられたが、あまり進んで口に出したい言葉ではなかった。ださいし、中二くさい。
 だが、あと五秒で鋭い鎗が俺を貫くことにるのだから、そんなことを言っている暇はない。

「焼き尽くせ……漆黒の炎!」

 この「ださい呪文」を唱えた結果に、俺は度肝を抜かれた。突然、隊長の体から「漆黒の炎」が吹き上がったのだ。
 火種もなく自然と発火した炎は、隊長の顔や体を包み込み、熱さに苦しむ彼は地面に崩れて悶え始めた。

「ぐあああっ……!」

「隊長っ!」

 部下たちは馬に積んでいた荷物から大きな布を取り出すと、大慌てで鎮火作業を始めた。しかし、火の勢いは衰えることなく燃え盛るばかり。
 命を狙われたとは言え、この痛々しい悲鳴を聞き続けることはできなかった。

「……火を消す方法はあるのか?」

「いいのか? 今こやつを殺さねば、お主はまたいずれ命を狙われることになるぞ」

「いいから早く教えてくれ!」

 悪魔は素直に鎮火の方法を教えてくれた。燃やした対象に再び手のひらを向けて、炎が鎮火していく様子をイメージしながら、ゆっくりと手を閉じる。
 黒い炎は徐々に勢いが衰えていき、最後は完全に消すことができた。
 虫の息になっている隊長に駆け寄る彼の部下たち。隊長の体には不思議と火傷などの外傷は見られなかった。

「もう心配ない。行くぞ」

 そう言って悪魔は俺の手を引いて、小さな路地へと駆け込んだ。