複雑・ファジー小説
- Re: 【第三部 開幕】ウェルリア王国物語-鏡の世界の王子様- ( No.2 )
- 日時: 2016/03/01 20:01
- 名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: APISeyc9)
【プロローグ:とある国で】
魔法少女は瞳を閉じた。
鏡に反射した灯りが眩しい。
まぶたの裏にまばゆい光が透けて見える。
「アラ……」
立ちくらみがして、少女は思わず「イヤだわ」とつぶやいた。
「アラアラアラ」
手には封が切られた手紙が一通、握られていた。検閲済を知らせる赤い印が目を惹く。
「早く助けにいかなくちゃだわ」
手紙を机の上に置き、すぐにクローゼットの中を確認して、魔法少女は再度「イヤだわ」とつぶやいた。
「愛しのダーリンのところへ行くのにお洋服が一着も無いだなんて」
イヤだわイヤだわ、と頭を振って、少女は妙案を思いついた。
「……そうよ。無いなら出せば良いんだわ」
ポンッと手を打って、満足げに頷く。
袖口をまくってブーツに隠し持っていた杖を取り出す。
「エイっ」
杖でクローゼットを軽く叩くと、クローゼットは一瞬まばゆい光をまとった。しかし、その姿形は変わらず。何の変哲もない、ただのクローゼットだ。
しかし少女は構わず、勢いよくその扉を開けた。
すると。先ほどまで白いワンピースがかかっていたはずの場所に、星が輝くような煌めきに包まれた薄紫色のドレスがあった。
「んんっ。ミラちゃんってば、完璧っ」
にっこり微笑みを浮かべて、ドレスを眺める。
それは、魔法少女も納得のいく結果であった。
「まっててね、アスカ様」
満足げに頷く彼女の足元で、何かがもぞりと動いた。
少女はハッとして、視線を落とした。
彼女の靴に額を擦り付けるようにして、シャム猫がまとわりついていた。
気持ち良さそうにオッドアイの両目を細めて、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
少女は仕方なさそうに息を吐くと、可愛く「めっ」と叱った。
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《ソレ》を追い払って、少年は、ソファの上に投げ捨てていた上着を掴んだ。
「そうか。……遂にやって来るか」
窓枠に背を預けて、彼はつぶやくように言った。
すぐ目の前に、全身が映る姿見があった。
薄暗い中でも鏡の中の自分の唇が引きつっているのが分かる。
そんな彼の姿に重なるようにして、《例の少女》の顔が透けて見えた。
「迎えに行ってあげなくっちゃ。ねえ?」
かかとを蹴って鏡のすぐ横に位置する扉を開ける。
照りつける太陽の日差しに、彼は思わず目を細めた。
「ーーお姫様の登場だもの」
雨上がりの湿った空気が、彼の肌をぬるりと撫ぜた。