複雑・ファジー小説
- Re: 【第三章】ウェルリア王国物語-鏡の世界の王子様- ( No.38 )
- 日時: 2017/11/22 18:19
- 名前: 明賀鈴@ただいま (ID: zL3lMyWH)
「どぅわっ!」
不意を突かれて、リークは思わず仰け反っていた。
ウェルリア兵として厳しい鍛錬を積んだリークでも、その気配に気づくことは出来なかった。
(なんだってんだ……このバアさん……)
怖気づいて、そのまま帰ってしまおうかとも考えたけれど、ぐっと堪えて言葉を紡ぐ。
「あっ……いや、あの、オレは、その……」
「…………」
じっと見つめられる。
そのまま見つめていると、魂ごと吸い込まれてしまいそうなーー
「ハッ——」
いけない。
呼吸するのも忘れていた。
己をも忘れてしまいそうな、惹きつけられる『何か』がある。
長い間一緒にいたら、それこそ、取り込まれてしまいそうな——
「——お前」
老婆の声に、リークは反射的に姿勢を正した。
身構える隙もなく老婆の嗄れた声がリークを責める。
「…………来るのが遅い」
「……へ?」
予想だにしなかった言葉に、リークはただ呆然とするしかなかった。
- Re: 【第三章】ウェルリア王国物語-鏡の世界の王子様-【更新再開】 ( No.39 )
- 日時: 2017/11/23 23:14
- 名前: 明賀鈴 (ID: mnPp.Xe.)
この呪術師……俺が来ることを予知していたのか。
だったら——
話は早い。
「なあ、フィアルを助けてくれ! 呪術師なんだろ!」
冷たい視線を感じる。
「……それが人にものを頼む態度かえ?」
ボソリと、だがしっかりとリークの耳に届く声で呪術師は云った。
「ぐ……」
小さく震える拳を握り締める。
「……あの、お、俺の友人を、た……助けたいん……です。力を貸してくださいお願いします。何でもしますんで」
「何でも?」
ジュリアーティの片眉が吊り上がる。
しばし、沈黙が続き——
「良いじゃろう」
「本当か! ……あ、いや……本当、ですか」
「ただし、ワシのお使いに付き合ってくれたらな」
「は?」
お使い? と小さく口の中でつぶやくリークに、老婆は間髪入れず続ける。
「貴様、イズミとは知り合いじゃったな」
「しっ……知り合いなんてもんじゃねえ! なんでそこでイズミなんだ! 関係ねぇだろ!」
「お前さんの友人がそこにいるとしても、か?」
「…………どういう意味だ?」
「イズミは今、そこにおる。こちらが表と云うならば、そうさなあ……そこは、【裏】の世界というべきか」
「何云ってんだ?」
「イズミに伝えて欲しいんじゃ」
老婆の濁った瞳がまっすぐリークを見つめる。
「『世界の均衡が崩れる』とな」
「き、きん……こう? 何云ってんだよ。訳わかんねぇ」
「ゴチャゴチャ云わずにしっかり伝えて来ぉ。お前さんがお前さんで無くなっても良いのか!!」
「っ……」
目の前の老婆が云っている言葉の半分も理解が追いついていないが、リークは老婆の気迫に、これは只事ではないのだと悟った。
「お前さんの尋ね人もそこにおる」
「…………アイツが、イズミと一緒にいるってのか?」
「ボウズ。こっちゃ来い」
老婆は、それ以上会話する気はないようだった。
一方的にそう告げると、店の奥へと姿を消した。
しばらく呆然と立ち尽くしていたリークだったが、こっちに来いと云われたのを思い出し、周囲の視線を感じながらカウンターの奥へと消えた老婆の後を追いかけるのだった。
- Re: 【第三章】ウェルリア王国物語-鏡の世界の王子様-【更新再開】 ( No.40 )
- 日時: 2018/02/06 13:03
- 名前: 明賀鈴 (ID: b9lAghYk)
そこは、一言で表すと非常に異質な空間だった。
窓はひとつも無く、暗闇を照らすのは仄かに灯る蝋燭だけだった。
頼りない灯を頼りに、リークは更に部屋の奥へと進んだ。
扉を開けた瞬間、一国を守る立派な兵士である彼でもさすがに度肝を抜かれた。
焔に揺らめく自身の影が、無限に存在していた。そこは、全面鏡張りの部屋だった。
「ここは……」
思わず溜息が漏れる。
「頼んだぞ」
どこからともなく老婆の声がした。そうかと思えば次の瞬間、リークはすべての意識を手放していた。