複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】 ( No.107 )
日時: 2016/12/25 18:29
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: jrUc.fpf)

クリスマス番外編  「サンタさんって結構親にカミングアウトされるよね」





「つーわけで各世界の株式会社の策略が渦巻くクリスマスだよ、イブは昨日だったけど」
「策略とか言わないでくんない?」

 会議室で大きなホワイトボードに夜明は勢いよく「クリスマスのプレゼント配る係 通称サンタ」と書いた。ムードも糞もない発言に虎功刀はげんなりと茹でたほうれん草の様に体の力を抜いた。
 他のメンバーは夜明の発言云々よりもプレゼントに何をもらおうか色とりどりのパンフレットを捲る。

「私はブランドのバッグがいいわねぇ」
「俺は商品券かな。沢山食べたいシ」
「おおっと、強欲組が一歩リードしたぞ」
「夜明さん、何でもいいんですか?」

 子供の様に結廻と月雲が顔を輝かせる。いつもはクールな藻琴も今回ばかりはうずうずしているようだ。夜明の服を強く引っ張っている。夜明は「高すぎないものをね」とだけ呟いた。

「わ、私はフライパンですね……。今使ってるフライパン、錆びてしまっていて……」
「私は包帯と絆創膏ですかね、消耗品ですからすぐになくなっちゃって」
「流石呉羽と時雨。俗じゃないわね〜。あ、私はUSBを20本ぐらいほしいわね。足りなくなってきちゃった」

 呉羽と時雨の背景が白だとすると華南は真っ黒だ。そのUSBは何に使うのだろう……。とみんな思っていたが質問する勇者は今いなかった。暫く何も語らなかった蛇腹だが、漸く口を開いた。

「……俺は4DSじゃな。ゲリオカートを身近でやりたい」
「俗爺!!」

 虎功刀は立ち上がって蛇腹に指を差した。蛇腹はワインでいうと相当の年齢。いい歳して、という言葉もあまり当てはまらないのだがこうやって少年心を出されると如何も落ち着かない虎功刀だった。
 落ち着いたのか椅子に座る虎功刀を夜明はじとっと見つめた。

「……で、虎功刀は何が欲しいわけ」
「え、俺?」
「左様」

 思いにもよらぬ問いに虎功刀は思わずギョッとした。何時もならサンタを押し付けられる役柄なのに。まさかもらえるなんて。そんな思いが頭をよぎった。

「本当にいいのか? 社長」
「いいって言ってんだろ。毎年わたしがサンタやってんだから」
「初めて知りました」
「始めて言ったもん」
「本当に? いいの?」
「早くしないと煮込むぞ」
「……感触のいいソファーがホシイデス」
「そうか」

 何だか回りがヒソヒソしていたが虎功刀は嬉しさと恥ずかしさで周りの声何て聞こえなかった。夜明はホワイトボードに全てリクエストを書き込む。

「今日は解散。明日を楽しみにしとけ」














(何だよ、何だよ社長! かっこよさすぎだろ! こういうときだけ社長っぽくなってさぁ! 糞、寝れねぇ。俺もまだまだ餓鬼だな……)

 深夜2時。虎功刀は自室のベッドの中にてそわそわしていた。眠くはない。緊張に似た楽しみという感情が体中を支配していた。夜明の事だ、きっと普通のプレゼントの渡し方はしないだろう。
 そう思っていると、自室の部屋のドアが小さくギィと開いた。

「よし、寝てるな……」
(千鳥足になってら、こういうときだけお嬢さん感を出すんだもんなぁ)

 微笑ましい気持ちで細目で夜明を見る。大きな袋にプレゼントが入っているのか夜明はごそごそとプレゼントを出す。

(おっ。きたきた)
「……虎功刀。メリクリあけおめことよろ!!」
「え」

 夜明はそう言うと、野球選手宜しく、フルスイングでプレゼントをブン投げた。それからの虎功刀の記憶はない。













「おはようみんなぁ。ねえ、聞いて頂戴! 社長がいつ入ってくるか昨日ずっと起きていたんだけど、或る時間になったら記憶がないのよぉ」
「俺もだよ、何でかなぁ」
「寝落ちしちゃったんですかね」
「……あと頭が痛いんですが」

 翌日の朝、嬉しそうにしながらも不思議な事件に対して首を傾げる結廻と月雲と時雨。痛そうに藻琴は頭を押さえている。記憶があるのか呉羽と蛇腹と華南と虎功刀は苦笑いしながら床を見つめていた。
 夜明は何事もなかったかのように一言。

「ケーキ食べたい」