複雑・ファジー小説
- Re: 名前のない怪物【血の楔篇】 クリスマス番外編掲載 ( No.109 )
- 日時: 2016/12/28 20:07
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: nxCracO9)
「姉さん。また料理失敗しちゃったの?」
「……し、失敗じゃないわ……っ」
あれから13年。藻琴と呉羽は16歳になり、背も昔とは比べ物にならないぐらい高くなった。藻琴の慎重な性格は変わっていないが、呉羽のお転婆な性格は也を潜め、恥ずかしがり屋で控えめな箱入りお嬢様になっていた。
今でも昨日のように思い出すお転婆な姉がこうなるのは想像もつかなかったが、この性格になって5年たつので慣れてしまった。
「ちょっと目を離したら焦がしちゃっただけ……!」
「それを失敗っていうんだよ」
的確な指摘にかあっと顔を赤くする呉羽。大して気にも留めずに藻琴は欠伸をしながらその部屋を後にしようとした。
思い出したように藻琴は一歩足を止める。
「あ、姉さん。また作り直すなら父様と母様のご飯も準備しておいてよ。今晩帰ってくるってさっき連絡があったから」
「そ、そう……!? じゃ、じゃあやり直そうかな」
「お願い」
そう言うと足早にその場から去る。藻琴には向かう場所があった。その場所は——政察の設備、訓練場。ここで政察の人間は武術や銃器の腕を磨くのだ。それは笄の血を引いている藻琴も例外ではなく。
腰に差している竹刀に触れながら歩くスピードを速くする。
(……早く強くなって僕も父様みたいな立派な人に……! そして市民のみんなや母様や姉さんを守るんだ)
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「坊ちゃん。お先に失礼しますね。お体を冷やさぬようお気を付けください」
「ああ。お疲れ様」
政察の男は汗にまみれた笑顔で藻琴に綺麗な礼をする。そしてそのまま訓練場を去っていった。藻琴も適度に返事をすると竹刀の素振りを始める。周りにはもう訓練している人間はいなかった。
最初はあれだけいたのに。たまたま、視界に時計が目に入る。時刻は深夜の3時を示していた。
「うわっ。もうこんな時間か……。シャワー浴びて寝ようかな」
道理で眠気があったはずだ。藻琴は急いで竹刀を仕舞うと訓練場を出た。其のあとシャワーを浴びて、自分の部屋へと向かう。だが、本当に気まぐれに姉のことを思い出した。
とっくにもう自分以外と食事をして眠りに入っているのだろうが、気まぐれ程度に調理台へと向かうことにした。
「母、様……?」
それは5分もたたない出来事だった。今まで平和に暮らしてきた彼にとってその光景は頭に思い切りハンマーでぶつけられたようなショックだった。
調理台の入り口のすぐそばにある電気をつけた瞬間、目に入ったのは血だまりの上で横たわる短い黒髪の女性。
そのすぐそばに立っていたのは見間違うことのない、【母】の姿だった。
「何を……しているんですか……?」
麗羅には相応しくないものが握ってあった。昔、覚えのある赤紫の日本刀。今まで銃器など持ったことのない平和の象徴であった麗羅の右手には日本刀がしっかりと握ってあった。
日本刀からは伏している女性のものと思わしき血が滴り落ちていた。