複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】 クリスマス番外編掲載 ( No.111 )
日時: 2017/01/06 20:31
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: NzSRvas.)

 ゆっくりと、麗羅は床に伏せている女から驚き怯える藻琴の方へ顔を向けた。その表情は悲しみでも喜びでもなく、只々、無表情であった。それが逆に藻琴を恐れさせているというのに。
 麗羅は漸くこの状況を把握したのか、口元に弧を描き、目を大きく見開いたまま嗤う。

「こんばんわ可愛い子。これで漸く邪魔者はいなくなったわね」
「母様……?」

 声が違う。雰囲気も違う。こんな顔はしない。麗羅の口調は快活だし、雰囲気もこんなにも気持ち悪いものではない。
 藻琴はこれが母ではないと認識した。

「……お前は、誰だ? そしてなぜその人を殺した」
「あーあ。バレんのはや……」

 麗羅、のようなものは詰まらなそうにわざとらしくため息を着いたのち、肩の力を抜いた。

「私はあなたたちで言うところの妖刀ってやつね。でも失礼しちゃうわ……。私、落ち椿っていう綺麗な名前があるのに」
「妖刀……!? お前まさか」
「そう。そのとおりね可愛い我が子。お前が幼いころ私を開けてくれたでしょう?」

 落ち椿は幸せそうに楽し気に微笑む。麗羅の姿で笑っている分、藻琴にとってはとても気味が悪かった。だが今はそんなことどうだってよかった。ただ、如何してこうなっているのか、其れだけが疑問だった。

「……なぜ母さんがお前なんかを……」
「お前なんかとは失礼ね。先に私を望んだのはあなたのお母さんよ。貴方達が私を見つけたその日の晩から麗羅は私は一心同体。……そう、この我儘な女の願いを聞くためのね」
「願い……? 何のことだ」
「この死んでる人、あなたの実の母親よ」

 空気を換えるような落ち椿の発言。思いもよらなかっただけに、藻琴の心はハンマーにでも殴られたかのように衝撃が走った。
 心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。

「何……言ってる……?」
「……16年ぐらい前、笄さんと派遣社員のこの女は——所謂浮気ね。まあ、当時若造だった笄さんは派遣社員のこの女を愛してしまった。でも、妻子ある身でありながら勿論その愛は認められない。麗羅は其のことに気が付いていたわ。でも、その時にはもうこの女はあなたを身籠ってた。だから、あなただけを引き取って天童家の嫡男として育てていたのだけれども——……」
「そんなこと信じられるか!! 何の根拠もないじゃないか!!」
「何も無かったらあなたも麗羅もこんな目に合ってないわ」

 ギロリ、と落ち椿は鋭い目で叫ぶ藻琴を睨み付けた。麗羅から見たことのない表情に思わず半歩下がる。
 落ち椿は心底否そうにため息を着いた。

「だけど今日が来てしまった。笄がちゃんと話がしたい、だなんて言うから——麗羅はもう壊れてしまったわ」