複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】  ( No.114 )
日時: 2017/02/08 18:29
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: Ed6RPZhj)

 其の日は冷たい秋の風の吹く9月。藻琴は政察本部の外に出ていた。……いや、藻琴だけではない。

(……人間って移り変わり速いな)

 ザワザワと周りが騒がしい。それもそのはず。何故なら、今まで牢獄に自ら入っていた政察のトップの息子が何を考えてか知らずか急に地上に出てきたのだから。笄も気分転換になればとでも思ったのだろう。思ったよりも簡単に牢獄から出られた。
 何となくこうなることは予想できていたものの、藻琴は嫌でもそう考えてしまう。以前はあれほど慕ってくれていた部下も、今では腫れ物に触れるような表情だ。「如何して今更」「親殺し」などの声も聞こえてくる。

「……おい、面白いものって何」
『そうせっかちにならないで。……来たわ、見てて』

 ボソッと竹刀袋に隠している落ち椿にそう問うと、彼女は息をひそめた。
 すると、制服で統一しているわけでも真面目な顔をしている人間が来たわけでもない各々の個性が爆散している珍妙な組織がこちらに向かって歩いてくる。

(……あれは……)
『要人結社よ。ここ数年ですごく勢力を伸ばしてきてるの。トップはあの茶髪の女の子ね』
「あれが……」

 要人結社。名前は聞いたことがある。政察がなかなか手に負えない事件を赤子の手を捻るように解決してきた組織。だがその実態は謎に包まれたままだ。
 メンバーですら見たことはないのに、いきなりこのような状態になって藻琴は正直驚いていた。

「ご足労感謝します。代表取締役」
「凄い人数だね。大名でも来てるかと思ったわ」

 笄の言葉に特に表情を変えることなく淡々と言い放つ自分とあまり年が変わりなさそうな少女。その背後で気まずそうに冷や汗を流す高身長の男。特に興味なさそうに欠伸をする黒い髪を1つに縛った端正な顔立ちの男。
 組織としては異様で、統率が取れていないように思えた。

「いえ。これはほんの一部の人数です。他のものは通常の業務に取り掛からせておりますゆえ」
「そうかよ」
「こちらへどうぞ」

 笄が腕を伸ばし代表取締役——夜明を案内する。夜明の背中が本部に消えていくのを確認すると藻琴は再び落ち椿に話しかける。

「……見せたかったものってこれ? 何のために」
『要人結社(あそこ)、いい場所だと思うの』
「……はぁ?」

 要領を得ない落ち椿の言葉に思わず藻琴は眉を顰めた。そんな彼の少し離れた後ろで、悲しそうに苦しそうに呉羽が突っ立っていた。

(あの子供(かいぶつ)なら私の呪いだって解けるかもしれない)