複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】  ( No.117 )
日時: 2017/02/14 15:32
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: Ed6RPZhj)

(……イメージとはだいぶかけ離れた組織とは思った。……けど)
『どうしたの』
「お前が言ったような興味は湧かない」

 だから。

「行くなら勝手にしろ」

 そう言って藻琴は客人として招かれた夜明一行を再び一瞥することもなく地下牢への会談へと向かう。自分の家に。














10

「何。わざわざわたしたちが来たって理由はお前の社員共のインターンシップ先にさせようってわけか?」
「ら、乱暴な言い方をするとそういうことになります。ぜひ、今までのあなた方の社会貢献を少しでも社員たちに体験あるいは学習させようと……」
「学習て……。もうお前ら20歳超えてんでしょうに、学ぶんなら人からすぐに教わらずに自分で学ぶ習慣を身につけな。これだから現代っ子は……」
「社長、アンタもベリベリ現代っ子」

 笄の仕事部屋に案内された夜明一行。
 笄の提案を面倒くささを隠すことなく表情に浮かべた夜明は渡された書類に目を通して眉間に皴を寄せた。そっと虎功刀が気まずそうに耳打ちした。
 隣の月雲はどうでもよさそうに出された食べ物を頬張っている。

「インターン? ああ、前にテレビに出てた大学生とかが企業の体験をしてとことん失望するっていうイベントだろ?」
「失望とか言うんじゃありません」

 ケラケラと楽しそうな月雲に夜明は一喝する。長いため息をつく虎功刀。笄は痺れを切らしたように口を開いた。

「あの。それではいいという方向へ話を持って行っていいでしょうか?」
「まあいいけど。暇人4分の3ぐらいいるから。日程とかはどうすんの」

 夜明がようやく書類から目を離し、射貫くような視線で笄を捉える。当の笄はその視線に恐れたのかあるいはその他のことに悩んでいるのかは不明だが、一瞬言葉を失う。
 そして、何か決心したように再び口を開いた。

「日程は今月の下旬辺りでお願いします。人員は1人。……ぜひ、私の息子を連れて行って下さい」
「へえ。アンタも奇特だな。跡継ぎだろ? いいのか、そんなホイホイほかの家に寄越しちゃって。箱入り息子だろ」

 虎功刀が驚いた、という表情を浮かべる。笄は視線を床から離さないまま、たどたどしい口調で言う。

「……お願いします」
「わかった」
「即答とか本当パないな社長」
「早く終わらせるに限る」

 夜明はそっとどこか浮かない笄の表情を見た。

(……親子喧嘩か何かあったんだか。でもまあ、関係ないや。面倒くさそう。放っておこう。べっこう飴が食べたい)

 そう思いながら夜明は判子を取り出した。