複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】  ( No.119 )
日時: 2017/03/15 15:35
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: VEQd3CZh)

「……ん、あれ、戻ったんだね」

 少し辺りをキョロキョロと月雲は見渡す。他の人物も同様だった。先程の捻じれ曲がった空間は嘘だったようにどこにもなかった。
 その代わり、よく見覚えのある呉羽と藻琴の実家——政察本部の一室が目に入る。

「はー。夢みてぇだな……」
「残念ながら夢じゃないよ」

 ため息を着きながら話す虎功刀に夜明は即答した。一瞬目を怪訝そうに細めた彼だったが、其の言葉の真意を直接目で見てしまったため、苦笑いをしながら冷や汗を流した。

「はいはい、そうですかそうですか。何だってんだよ一体」

 其処には。血の様に赤い目をした藻琴が日本刀——落ち椿を握って立っていた。その姿はどう考えても人間、否、藻琴の不断の姿からは程遠い。
 文字通り憑りつかれているようだった。藻琴も気になるが、その背後で夜明たちとは真逆に、目覚める気配がない呉羽と笄が目に入った。

「ねえ、落ちなんちゃら。何で呉羽は目を覚まさないの? 過去の体験とやらは終わったよ?」
『……暫くは起きないわ。過去の体験で負担がかかってしまったもの。でもこっからは藻琴の望みを叶える時間。……天童笄を殺すっていうね!!』

 藻琴の姿、藻琴の声で落ち椿は月雲の問いに答えた後、恨めしそうに笄を一瞥した。
 その瞬間、握っていた日本刀で笄の首を撥ねようとしたが、夜明のサーベルによって弾かれてしまった。

「社長!」
『……流石要人結社の社長。只ではやらせてもらえないわね』
「あのさ」

 不敵に笑う落ち椿など露知らず、夜明は3文字言葉を発する。思わず動きが止まる落ち椿だった。
 其のまま夜明は話し続ける。

「何で今なの? 笄を殺すならもっと前でも未来(さき)でもよかったじゃん。何で今なの?」
『貴方が此処に呼ばれてしまったからよ』

 少し悲し気に落ち椿は刀身を振るう。

『……遅かれ早かれ呉羽は政察(ここ)を継ぐはずだった。其れだけなら何も問題なかったのよ。でも夜明(あなた)が個々に来てしまった。藻琴はまた笄が【母と同じように何か不幸を与える】と思ったんでしょうね、今まで正常だった精神が一気に私に持っていかれたわ。割合で言ったら7:3』
「そんなの杞憂だ」
『そうね杞憂ね』

 落ち椿は夜明の言葉にニタァと不気味に笑う。再び日本刀を握りなおすと夜明に襲い掛かる。

『でも私にとっては好都合! 人間の醜い欲望や憎しみを食べられるんですもの! 私は妖刀! 己の欲の為ならなんだってするわ!』
「おい月雲、虎功刀! 呉羽と笄起こせ!」

 刀身同士の重なる音が響き渡る。突然の命令に月雲と虎功刀の肩が少し跳ね上がった。

「はいはい」
「つっても……起きんのか!?」

 バッと2人は呉羽と笄の元へ駆け寄る。肩を抱き上げて全身を揺さぶる。

「おい呉羽! 今藻琴がヤバい! 頼むから起きてくれ」
「ねえ笄? だっけ。早く起きないとアンタの組織なくなっちゃうよ〜」












ちなみに虎功刀はちゃんと起こしてますが月雲は木の棒でつついて起こしてます。