複雑・ファジー小説
- Re: 名前のない怪物【血の楔篇】 ( No.120 )
- 日時: 2017/03/21 21:18
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: Ed6RPZhj)
『お父様!』
『父上!』
……いつからだろう。此処まで歪になってしまったのは。メビウスの輪何てうまくいったものだ。裏も表も同じ、つまり表裏一体。
平和で明るく楽しかった過去も、粗雑で苦しく悲しい現在(いま)も大して変わらなかったというのか。昔を見た。昔を体験した。
感想は言わなくてもあなたならわかるだろう、二度と見たくなかったのに、だ。中二病が我に返って当時のメモリアルを見せられているのと同じだ。
何故か今はすごく安らかだ。目覚めたくない、のに。誰かが、誰かが私を呼んでいる……。もう目覚めたくはないのに。
12
「……ここは」
「ん? アンタんとこの組織のどっかの部屋だよ」
「アバウトすぎんだろ」
ゆっくりと笄は目を開ける。第一に目に入ったのは丸い目をぱちくりさせる月雲と呆れたようにため息を付く虎功刀だった。
意識が若干ぼんやりとしていた笄だったが、先ほどのことを思い出し勢いよく起き上がる。
「藻琴は!? 呉羽! ……それに、夜明様は!?」
「ん〜? あっち」
のんびりと月雲は夜明と落ち椿が戦っている前方を指さす。目に入ったのは笄らほぼ一般人の目では負えない剣劇を繰り広げている夜明と落ち椿だった。見たところ、決着はまだつきそうにない……が、夜明はこちらの気配を察したのか、顔だけこちらに向ける。
「笄起きたか! 呉羽は?」
「……まだだ。ピクリとも動かん」
「……落ち椿(こいつ)の力の負荷がデカかったんかね。……お前らは呉羽担いで巻き込まれないようにしてくれい」
「冗談きついっての!」
「余所見とはいい度胸じゃない! 馬鹿にしているの!? しているのね!?」
テキパキとスタイリッシュに落ち椿の剣戟を冷静に夜明は対処した。それと同時に虎功刀達に命令を下す。
虎功刀はうろたえながらも呉羽を抱え素早く部屋の出口まで接近する。それを察した落ち椿は金切り声を上げながら懐にしまっていた藻琴の暗器——短刀を虎功刀の眼前に投げつける。
「うおっ! なんだぁ!?」
「ナイフか。陰湿な藻琴お似合いの武器だね」
「ンなこと言ってる暇ないって!」
「……藻琴……っ」
喜々としてナイフを振るう藻琴——落ち椿を見て笄は苦しそうに唇をかむ。
(……私を殺そうとするのは構わない。それだけのことを私はしてしまった。でも、でも今のお前(もこと)は……苦しそうだ……!)
すると、背後から落ち椿の脳天に夜明のかかと落としが直撃する。その反動で落ち椿の顎は床に叩き付けられる。
「ようやくいーの入ったー」