複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】  ( No.128 )
日時: 2017/04/09 19:24
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: VEQd3CZh)

「今日もお泊りになられてもよかったのですよ」
「帰る」
「流石社長、とことんブレないぜ」

 早朝——時刻は六時半。まだ完璧には太陽が昇っていないこの時間に夜明と月雲、虎功刀そして呉羽は要人結社に戻ろうとしていた。笄の言葉に即答した夜明に虎功刀は苦笑していた。
 笄は肩を竦めながら口を開いた。

「……本当にあなた様方には頭が上がらなくなってしまいました。今ここに【あの子】はいませんがきっと私と同じ気持ちです。……本当にありがとうございました!!」
「……おう」

 笄はそう言って礼をする。夜明は一泊おいて頷いた。そしてとくに言葉をかけることもなく笄に背を向け帰路に向かっていた。
 月雲は軽く手を振って「また来たら今度もうまいもの食わせてヨ」と言い、夜明の後に続く。呉羽は荷物をまとめたリュックをキュと握る。

「お、お父様! また来ます、如何か、お元気で……!」
「……ああ。呉羽も無茶はしないようにね」
「はい!」
「行くぞ、呉羽」

 虎功刀に促され、呉羽は大きく頷くと駆け出した。その様子に笄は満足げに微笑む。そして、上を向いた。

「……さて、今日も一日頑張ろうか。……藻琴」

















 政察本部の屋上にて、帰って行く夜明たちを見送る藻琴の姿があった。何時も要人結社で着ていた軽装ではなく、政察特有の威厳ある制服を着ていた。
 その表情は晴れやかだ。

「……僕の我儘、聞いてくれてありがとうございます。夜明さん。僕は……もう逃げません。此処で、一からやり直します。その時は……。……いや、ここからは僕が本当の意味で強くなったら伝えます」

 夜明さん。僕を政察トップの息子ではなく、妖刀使いとしてではなく、1人の人間として接してくれてありがとう。僕はあなたのその不器用な優しさが大好きです。貴方のおかげで、世界は綺麗に見えます。

 静かに藻琴は目を閉じると回れ右をして屋上を去っていく。

(……月雲さん、特に特に虎功刀さん。夜明さんに何かあったら真っ先に殺してあげますね)

 藻琴は楽しそうに微笑んだ。



























14

「早くぅぅ!! 社長が死んじまうぅぅぅぅ!!」
「いやぁぁぁ!! 社長!! 死んじゃ駄目よぉ!! まだ今月分の給料払ってないわよぉ!」
「下がっててください!! 後不謹慎です!!」

 要人結社に着くなや否や、夜明は早速血を噴出した。取り乱した虎功刀がトップスピードで時雨のところへ連れていき、即座に夜明の腕には点滴が刺された。
 月雲に聞いたらしい結廻も取り乱し、大声で叫んでいる。時雨はカーテンを引くことで境界線を引き、彼らを退けた。

「社長——!!」
「生きてー!」
「お腹すいたー。呉羽ー」
「は、はい。……いいのかなぁ……」

 カーテン越しにざわざわと声が聞こえてくる。一息つきながら時雨は椅子にドカッと座る。

「まじ五月蠅いの極みだわ……」
「そうですね」

 そう言って時雨は苦笑する。……と同時に真剣な顔に変わった。

「社長。先程データを取らせてもらいました。……病気(のろい)は進行……してます。こんなこと言いたくないですけど、もう……」
「じゃあ、早く終わらせる。それでいいよ」
「いいわけないでしょう!! ……縁起でもない」

 時雨の感情が爆発する。その時、その空間は静かだった。夜明が口を開けようとした瞬間、隣に眠っているある人物の目をゆっくりと開いた。
 其の人物は——……。

「お目覚めしたみたいだよ、銀狼」