複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物 ( No.133 )
日時: 2017/04/22 21:09
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: VEQd3CZh)

(……今まで自分の身の上について悩んでた私がばかみたい)

 結廻は思った。夜明の容体が安定したと聞き、近くのコンビニで購入したスルメイカを土産に何時もの軽いノリで医務室に入ろうとした、のだが。先程の銀狼の話を聞いてしまったのだ。
 結廻も一度は奴隷のような部分に落とされた身。だから気持ちは痛い程にわかるが、年月が違った。自分の思想や行動が塗り潰されてしまうほどの年月が。
 だから、入ろうにも入れなくなってしまった。無性に恥ずかしいのだ。

(……私も奴隷だったのよぉ、だなんて言えない。だって、私は、私は。奴隷だったのは1年も経ってないのに)

 ぐしゃっと音を立ててスルメイカの袋はくしゃくしゃになっていく。












「……いや、愚問だった。それでは、失礼する」
「待てよ小僧」
「小僧て」

 目を伏せながら踵を返そうとする銀狼。再び夜明がそんな彼を制止する。どっからどう見ても夜明より年上の銀狼を「小僧」呼ばわりした彼女に思わず時雨はツッコまざるを得なかった。
 月雲は「どっかのジ〇リを思い出すネ」などと呟いていた。

「謝礼を貰っていない」
「ちょっと社長!? 私はいいんです。お金はいりません。只あなたが元気になったならそれでいいの」
「部下の仕事はわたし(社長)の仕事。礼はきっちり貰うぞ……」
「さっすが夜明主人公らしかぬ容赦の無さ」

 病み上がりの人に、と言いたいところだがそんなことを言ったら夜明は一番ひどい病人だ。夜明の容赦の無さは今に始まったことではないが、今回はさすがに酷いのではないのか。
 銀狼は奴隷にでもされると思っているのか虚ろな目に闇が入り込んだような気がした。
 そう思った時雨は立ち上がると同時に……夜明の口も開いた。

「銀狼、お前には今回の依頼である【清掃作業】を手伝ってもらうぞ!」
「任務!? 社長いつの間に」
「さっき」

 そう言って夜明は懐に入れていたらしい茶封筒をヒラヒラと月雲と時雨に見せびらかすように揺らす。

「仕事開始日は明日の午前10時。遅刻するなよ」



























「今日も快晴、絶世のお掃除日和ですな」
「ソーデスネ」

 そして翌日。動きやすい繋ぎに着替えた要人結社総員は依頼された清掃場所へと向かう。太陽燦々。春らしい温かい気温が空気を包んでいる——が、それに相応しくない者たちが数名。
 それは、銀狼・結廻・華南。
 流石の夜明も鬱屈とした3人に思わず眉を顰めていた。

「……おめーらこれでも一応以来だかんな」
「わかってるわよぉ」
「社長さーん。人選駄目だと思うんだけど」
「…………」

 チームワークの「チ」のない3人に夜明は現実逃避した。