複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物 ( No.134 )
日時: 2017/04/30 18:54
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: VEQd3CZh)

『今回のゴミ拾いに来ていただきありがとうございます。こんなにもの人数が来てくれて大変うれしく思います。ここ最近の一本木川には多くのごみが捨てられており——……』

 50代後半ぐらいの男はどうやら今回のゴミ拾いのリーダーらしい。メガホンを持って周りに集まるゴミ拾いをするボランティアの人たちに挨拶をしていた。
 結廻は隣にいる夜明にそっと耳打ちする。

「ねえ社長。本当にこれって以来なのぉ? 思いっきりボランティアって言ってるけどぉ……」
「人手が足りなくて困ってるんだと。それに銀狼に借りを返してもらうんだから丁度いい。ウィンウィンさ」
「相変わらず合理的ねぇ」

 其れはいいんだけど……。と少し眉を顰めながら結廻はそのまた隣にいる華南を横目で見た。
 当の華南はそんな視線知ってか知らずかはさておき、大きな欠伸を隠すことなくしていた。

「私インドア派よ社長? こういうのは体育会系の月雲君とかにやらせればいいんじゃない?」
「駄目に決まってんだろが、連れてきたら5話ぐらいで終わる短編が50話になるんだよ」
「それもそうねー……」

 そうだったと思いだしたかのようにため息を着く華南。その視線は明後日の方向を向いていた。そんな彼女は結廻はじっと良くない者でも見るかのように見つめていた。

(……よりによって華南(このひと)と同じグループだなんて……。やっていけるかしらぁ)
『では、始めてください。一番多くごみを取れたグループにはいいものを差し上げますので頑張ってくださいね』

 ボーっとしているうちに如何やら挨拶やら詳しい説明は終わってしまったようだ。慌ててハッと顔を上げる結廻。夜明を見るといつの間にか大きなごみ袋を持ってきていた。
 慌てて結廻も夜明のそばに駆け寄った。夜明はずっと立っている銀狼に呼びかける。

「ボーっとしてんな! 行くぞ」
「……どこに、行けばいい……」

 子供の手を引っ張るかのように夜明は銀狼の腕を引きずる。銀狼は小さな声で問うと、夜明は暫く考えた後、はっきりと言い放った。

「山だ」
「山ぁ!?」
「何で山なのよぉ社長さん!!」

 予想もしなかった物言いに思わず華南と結廻が突っ込みの嵐を入れる。夜明は「どうどう」と2人を宥めて口を開いた。

「一番ゴミを拾ったって人にいいものをくれるってリーダーは言ったんだ。けど闇雲に拾ったってそれは難しい。だから山に行って質のいいごみを拾ってくる」
「話聞いてたわよね!? 範囲はこの一本木川よ!?」
(……部下が……上司に本気で怒っている……)

 思わず銀狼は少し冷や汗をかいた。