複雑・ファジー小説
- Re: 名前のない怪物 【機械仕掛けの大海原篇】 ( No.150 )
- 日時: 2017/07/02 21:10
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: mZr6nb5H)
——オはようごザいます。
——今日も機ノう、性能共にもんだいアリません。
——誤差およソ0.5%。
——スベテのプログらむ認識完了。
——以上、機体のアップデートをスタートしまス。
——終了しまシた。こちらもイジョウ無し。
——機体を起動します。
——今日も一日、頑張りましょう——……。
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「……待ってて、佐那(さな)」
日光が遮断された薄暗い空間。真っ黒なカーテンがおよそ20畳ぐらいの広さの部屋に設置されているカーテンを覆いつくしている。
その部屋は無造作に螺子や書類など何らかのもので溢れ返っている乱雑なものであり——、その部屋の中心にいるのは、綺麗な長髪が目立つ10代後半ぐらいの少女。
少女は白衣の襟を直しながら、椅子に座っている無機質且つ無表情な、自らと瓜二つの少女の頬を撫でる。佐那、と呼ばれた少女は、全く反応を示さない。まるで、人形のようであった。
その表情は優しくもあり、悲しくもあった。
「私が、絶対に助けるからね」
「力を貸してくれる人もいる」
「絶対にうまくいく」
「全部終わったら、終わった、ら——……」
丁寧に少女は一言一言を「佐那」に紡ぐ。「佐那」に言い聞かせているようでもあり、自分にも言い聞かせているようでもあり。
夢見る乙女の如く、少女は爛漫に言葉を発する。途中で行き詰ったのか、一瞬、上の空になるが、何か思いついたのか明るい表情になり指を鳴らした。
「そう! そうよ。小さいころに2人でいった海に行きましょう。きっと今も綺麗よ。うん、それにしよう。それがいいわ」
少女は「佐那」に背を向け歩き出す。部屋の外へ出るのだ。
「天気もいい日にしましょうね」
「もうすぐよ。もうすぐで私の——私たちの悲願は果たされるわ」
ドアノブに手をかける。楽しそうな表情から一変、「佐那」の様な人形のような表情へ変わる。
「早く——、そのためには【お師匠】を殺さないとね」
すぐさま少女の表情は優しいものに変わり、後ろにいる「佐那」の方に振り向く。少女は満面の笑顔で言うのだ。
「いってきます」
キィ、とドアノブが閉まる。ドアが閉まってもなお、「佐那」は動くこともなく、表情も変わることはなかった。
ただただ、目の前を見ているようで、何も見ていないのだ。