複雑・ファジー小説
- Re: 名前のない怪物 〈ラジオ始めたってよ。〉 ( No.32 )
- 日時: 2016/04/25 20:14
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: kkPVc8iM)
——……要人結社。構成員9人で成り立っており、めぐろ区の住民から多大な信頼を得ている組織に関わらず、人物・仕事内容など殆どのことが謎に包まれている組織だ。民衆が知っているのは、悪を挫き、弱きを助ける組織だということだけ。
拠点も、要人結社の一員以外知らないのである——……。
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——要人結社のメンバーには各々役割がある。夜明は要人結社のボスである「社長」、月雲や虎功刀などの戦闘員、時雨といった医者、呉羽のような裏方に徹するメイド。そして残り1つ。
時雨や呉羽のように表立って行動はしないが、裏から戦闘員たちを支えている役職。それは、エンジニア。エンジニアは武器の新調・開発・修理、建物の修繕、新しい器具の開発など欠かせない存在である。エンジニアの領域は要人結社本部の1階にあった。そこに夜明もよく立ち寄るのだ。
「流石華南(かなん)。虎功刀の武器半日で直すなんてさ。あれ結構複雑なつくりのはずだったんじゃないの?」
「まー最初は手古摺ったけどね。毎日毎日戦いでぶっ壊してこられたらその杖の構造なんて暗記しちゃうわよ」
夜明は華南と呼ばれた桃色の髪に赤い色をした目が特徴的な美人から虎功刀の武器である杖を受け取りながら感心した。当の華南は大したことなさそうにあっけらかんと言い放つ。華南は若い者の、凄腕の技術を持つ。そして美人のほかに要人結社メンバーにあだ名をつけるのも特徴的だ。
「……で? シャチョーさんは何しにここへ?」
「何しにって……。君んとこの上司に呼ばれて参られたのだけども」
「バラさんに? それならさっき研究室(ラボ)に籠っちゃったわよ? おーい、バラさーん!」
「うっさいわ小娘! 聞こえとるわぃ」
大声で呼ぶ華南を一喝し、重い足取りでやってくる小柄で丸々としている目つきの悪い老人——蛇腹(じゃばら)。通称バラさん。蛇腹も月雲たち同様に人間ではなく異星人だ。蛇足かもしれないが、彼は定年後もここに居座るらしい心意気を前、夜明に見せている。
蛇腹は華南を睨み付けていたが、夜明を見た瞬間その態度は一気に軟化した。
「おおこれは社長。すみませんね、こっちから呼んでおいて」
「別に。気にしてないよ」
「シャチョーさん呼びつけておいて何する気なの? 何か薬でも開発した?」
「だーかーらお前は黙って仕事をしてろ!」
「はいはい、わかったから大声上げない。血糖値上がっちゃうよ」
まるで頑固な祖父とそれに対応する孫のような図だ。華南は諦めたように目線を机にあるパソコンへと目を向けた。
蛇腹はそんな彼女の心境など露知らず、夜明に先ほど右手に持っていた小瓶のようなものを差し出した。その中には透明な液体が入っている。
「なにこれ」
「これは相手の記憶を取り換える薬です。対象人物に飲ませるのもよし、かけるのもよし。対象の情報を聞き出したいときに大層便利だと考えたんだが……まださっき作ったばっかりでですね」
「そうかよ」
そう言って夜明は蛇腹から小瓶を受け取ろうとしたその瞬間だった。
蛇腹が手を滑らせて小瓶を落としてしまったのだ。小瓶はパリン、と軽快な音を立てて割れる。それと同時に中に入っていた液体も零れていく。
「あーもう。なにやってるのよバラさん」
「黙らんかい! あ、社長怪我は……」
「ガラスに触ってないから平気」
ため息をつきながらガラスの破片を拾い始める華南。それに続いて蛇腹もガラスを拾う。
だが夜明は少し気になったことがあった。それは、小瓶に入っていた液体のにおい。常人になら大した違和感はないだろう。だが、夜明は鼻が無駄にいいため、警戒していたのだ。
(……このにおい、嗅いだことのない……)
そう思っていた時だった。
「うわっ、なにこれ!?」
「げほっ、げほっ」
シュウウウ……。と液体から煙が立ち込めた。それはまるで焼き鳥をしているときに巻き上がってくる煙のようで。かなりきついのか蛇腹は咽、華南は煙を仰いでいる。
夜明はそこにあった扇風機のスイッチを入れ、煙を一掃する。そして2人の安否を確かめようと名前を呼ぶ。
「華南、じっさま、無事?」
「無事でーす」
「老体にはきついわぃ……」
苦しくないような声が聞こえる。ようやく煙が消えたころ、2人の姿が見えてきた。だが、その姿はあまりにも強烈なものだった。
「どちら様?」
「何言ってるのよ社長。私、華南よ」
「じっさまこと、蛇腹だが」
「……そうかよ」
夜明は無言で2人を洗面所近くの鏡の前へ連れていく。最初、2人は怪訝な目で顔を合わせていたが、鏡を見た瞬間顔が一気に青くなった。
「な、なんで……!?」
「これがおれか……!?」
そこに映っていたのは、高身長に桃色の短髪の美青年と美魔女と形容してもいいような妙齢の女の姿がそこにあった。