複雑・ファジー小説
- Re: 名前のない怪物 ( No.46 )
- 日時: 2016/07/05 20:26
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: kkPVc8iM)
「……これであと5時間は元に戻れんぞ……」
「いや、待って」
今の状況に冷や汗を流す蛇腹(♀)。そんな蛇腹を落ち着かせるように夜明は肩を軽く叩いた。そしてすたすたと砕け散った小瓶の元へ歩いていく。
動じていない夜明に虎功刀(♀)を始めとしたメンバーは動揺を隠せない。
「おい社長! 爺さんが言ったろ。あと5時間は薬はできないって。そんな液体じゃもう……」
「もうすぐだな」
「何がですかぁ?」
目をパチクリとさせる結廻(♂)が只じいっと、無心に流れ出ている液体を見ている夜明の顔を覗き込む。
自分の上司の行動が今ひとつわからない様子だ。夜明は不思議そうに自分を見ている部下を気にする様子無く、一言、呟く。
「……時間だ」
——その瞬間。
一袋の小麦粉を辺りに巻いたように液体から白い煙が勢いよく立ち込める。
突然の反応に夜明を除く人物は対処しきれずに被爆してしまう。
ゲホゲホと咳払いが暇なく聞こえてくる。
「い、一体何が……」
「お、戻ってるじゃん」
呉羽は涙目になりながら月雲の方を見る。真っ先に異変に気が付いたのは月雲だ。自分の体を見て男の姿に戻ったことを嬉しそうに呟く。驚いた呉羽も続いて自分の体を見る。
其処には先程の米軍人の屈強な自身はおらず、代わりに何時もの見慣れた体があった。
「戻って……ます」
「あら本当だ。てっきり今日はもう戻れないと思ってたのに」
華南は体を一回転させて再確認する。360度どこからどうみても女の体で自分の体だ。虎功刀も蛇腹も歓喜の声を上げていた。
結廻は大したことなさそうに食堂の椅子に座る夜明の元へ行く。
「社長? もしかしてこうなることが分かっていたのかしらぁ?」
「yes。華南や蛇腹の性別が変わる前にも同じ現象が起きてたから。もしかしてって思ってさ。殆ど勘だったけど」
「さっすが夜明! 勘ならどの生命体にも負けないね」
月雲はニコニコと何時もの笑みを浮かべながらテーブルの上に座る。体が元に戻って間もないにもかかわらず華南と蛇腹は小瓶を回収して食堂を出ていこうとする。
「早速この薬の問題点を調べないとね。もうこんなことはごめんよ」
「喧しいわ! 次はもっとパーフェクトな薬を作る」
「頑張れエンジニア諸君」
2人は夜明のエールに軽く会釈をすると足早に食堂から出ていった。
虎功刀は緩み切った顔で呉羽に問う。
「呉羽ー。今何時だ?」
「えっと、今は3時少し過ぎましたね」
「3時……?」
微笑を浮かべて答える呉羽に結廻は何か引っかかったような表情を浮かべた。何か。何か大事なことを忘れているような——……。
その時。
勢い良く扉が開いた。開けた人物は藻琴で買い物袋を持ったまま、汗だくで夜明に駆け寄ろうとしていた。
「夜明さん!! 早く——」
「ブベラァッ!!」
夜明は盛大に吐血した。ビチャビチャ不気味な音を立てて床に雫ができていく。ギョッとした呉羽は急いでモップを持ってきて血を拭く。
「シャチョウ!」
「嗚呼、そっか。3時って夜明の定期点滴の時間だ」
「気づいたなら早く言ってくんない隊長!?」
ポン、と思い出したように月雲は手を打つ。虎功刀は顔を真っ青にしながら彼に怒鳴りつける。
そんな彼らに何も言えないまま夜明はその場に大きな音を立てて倒れこんだ。
「夜明さん! 夜明さーん!!」
「落ち着いてぇ、藻琴ちゃん。社長は不死身……。ひゃあああっ」
「何してるんですかみんな! 早くどいてください! 運びますよ」
ガラガラと忙しない音を立てて担架を持ってくる時雨。片手には点滴セットが持ってあり、テキパキと医者の名に恥じない手の動きを見せた。
夜明はあっという間に病患者に。時雨は「藻琴君」と一言呼ぶと彼も頷き、走りながら夜明を運び去って行った。呉羽も夜明が心配なのか一緒に着いていく。
「性転換云々よりも俺らって一番の爆弾抱えてるよなぁ……」
虎功刀の呟きに結廻も月雲も何も言えないのであった。
※
これにて性転換篇終了です。
次から次章に入ります。以外にもシリアスです。誰かのスポットを当てた話になってます。多分メンバー全員分ゆっくりと書いていくと思います。
どうかよろしくお願いします。