複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物   ( No.53 )
日時: 2016/07/10 14:55
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: kkPVc8iM)

「最後の言葉、どういう意味だったんだろうなぁ」
「知識が深い夜明さんの事です。きっと【虎功刀さんなんかより】考えての事ですよ」
「お前ほんっとうに社長が前にいないと憎たらしい餓鬼に成り下がるよな」

 虎功刀達一行は早速依頼のあった闘技場へと足を運ぶ。車で行こうかと考えたが、何かと目立つ危険性があるため歩くこととなった。
 港の近くに建てられてある闘技場だ。汽笛が低く唸る様に響き渡る。
 先程の夜明の言葉の真意を汲み取れない虎功刀は小さく呟いた。すると藻琴は厭味ったらしく吐き捨てた。虎功刀にとってはこのことはもう日常茶飯事なので大きくため息をつくしかないのだが。

「じゃあ藻琴ちゃんはわかったのぉ? 社長の言葉」
「……いえ、まだ。まだ例の闘技場に着いていないので何とも言えませんね」
「お前さんもわかんねぇじゃねえか。アホンダラ」
「痛いじゃないですか……!」

 結廻のの問いに藻琴は苦虫を噛み潰した様な何とも言えない表情に変わった。自分と大して変わらない考えの少年に虎功刀は不敵に笑うと軽く藻琴の頭を叩いた。
 軽く、といっても虎功刀は絶滅戦闘民族「涯亞」だ。力は相当なものになっている。それを証拠づけるように藻琴は鋭い目つきで虎功刀を睨んだ。
 
「……此処みたいねぇ。想像より大きいわぁ」

 虎功刀と藻琴が漫才を繰り広げているうちに、円形ドーム型の豪奢なデザインが施された建物が3人の前に大きく聳え立っていた。
 3人は迷うことなく闘技場へ入っていく。











「お待ちしておりました。オーナーから話は伺っております。此方へどうぞ」

 きびきびとした態度の従業員は手早く3人を案内していく。闘技場内は白く清らかだ。きちんと掃除をされている証拠だろう。
 感心しながら3人は従業員についていく。進んでいくと、人気が少なくなり、ある一室に辿り着く。従業員は足を止めると、「此処の部屋にお入りください。私はこれで失礼します」と言って立ち去ってしまった。

「忙しそうねぇ」
「それはこっちも同じだろ。さ、入るぞ」

 他人事のように間抜けな一言を上げる結廻に呆れながら虎功刀は言う。藻琴は「失礼します」と言うと躊躇いなく扉を開けた。
 部屋はちょっとした客と話すのに使われそうな部屋だ。中に入ると中央の低いテーブルと椅子にオーナである柏木が座っていた。

「ようこそ。お待ちしておりました。私、オーナーの柏木善吉と申します」
「俺らは上司の電話の通り、要人結社の人間だ。事件を解決しに此処まで来た。話を伺いたいのだが」
「あなた方の社長がお話しされた通りです。不届き者が何やら犯罪になるレベルの賭け勝負をしているらしくてですね。此方は合法的な商売をしているのにとても困っているんですよ。なので暫くここを護衛していただきたいのです。そしてそんな輩がいたら是非、捕まえてほしいのですよ」