複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物  【闘獄篇】 ( No.56 )
日時: 2016/07/11 19:27
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: kkPVc8iM)

「凄い人数だな、こりゃ」

 虎功刀は観覧席に空きがないほどの人数を見て、率直な感想を述べた。
——……遡ること、ほんの5分前、柏木は「折角ですので護衛を兼ねて選手たちの闘技を見て行って下さい」と言ったのが始まりだった。虎功刀は断ろうとしたが、結廻と意外にも興味を持った藻琴に折れ、現在に至る。

「強い人には興味がありますね」
「もしかして私と同郷の人がいるかもしれないわぁ」
「勿論です! 当闘技場の選手たちは決定的な強さがありますし、異星人もいるのですよ」

 ワクワクしながら席に腰掛ける結廻と藻琴の隣に座る柏木は興奮したように早口で話す。余程この闘技場に自信があるのだろう。少し顔が赤くなっていた。
 虎功刀は若干困り果てていた。

(……此奴等、仕事だってわかってんのかねぇ)
「それとですね! 貴方達はとても運がいい」

 思い出したかのように柏木は声を張り上げた。思わず明後日の方向を見ていた虎功刀も柏木の方へ顔を向ける。
 誕生日プレゼントを待ちきれない子供の様に結廻と藻琴は表情を綻ばせる。

「本日の目玉は何といってもあの【絶滅戦闘民族】であり、最も希少種とされている銀狼(ぎんろう)が出場するのですよ!」
「……絶滅戦闘民族がか?」

 これには興味を持ったのか、虎功刀は思わず思ったことを口に出す。柏木は満面の笑みを浮かべながら虎功刀の顔を舐め回すようにじっくり見つめる。

「ええ! 涯亞、麗狐(れいこ)、そして銀狼! 銀狼の特徴は涯亞にも劣らない強靭な力と速さ! そして体を霧に変える特殊能力なのです!!」
「おー……」

 興奮のボルテージが最高まで達した柏木は思わず勢いよく立ち上がった。藻琴は妙な反応を返しながら小さく拍手をする。
 すると、観客席の客たちの声が一斉に大きくなった。

「な、何だ?」
「始まりますよ! おや、早速メインの【銀狼】が出てくるみたいですね」

 柏木はニコニコと微笑んだまま、闘技場の中央にあるリングを見た。リングの下から、選手らしき人物が機械仕掛けのエレベーターに乗って現れる。

『皆さま本日もお集まりいただき誠にありがとうございます! さて、今回は察しのいい皆さまにはご理解いただけれいるとは思いますが、今回はビックイベント!! 何と、今から始まるこの試合! あの異星人の中でもトップクラスの実力を誇る絶滅戦闘民族【銀狼】が出場します!』

 大きな声を上げる司会者。それに合わせて観客の声もさらに大きくなっていく。
 リングの中央に立つ2人の人物の顔が鮮明に見えてくる。
 1人はいかにもボクサーらしき褐色の肌を持った筋肉質の男。

——……そしてもう1人は、銀河の様な銀髪に星の様な黄金の瞳を持つ高身長で尚且つ無駄な脂肪のない筋肉の付いた体を持つ美丈夫だった。

(……あの目……)

 結廻はふと、思った。
 どこかで見たことのある目だと。



『此奴、何円で売れますかね?』
『想像何てつくわけねーだろ! 軽く1000万は超えるだろ』
『お前にはそれしか価値はない……!』

——……止めて。止めて。

——……私には、価値はないの?

















「人間に——はない。あるのは——だけだ」

 


 あの人は確か——……。