複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物 〈オリジナルキャラクター募集中〉 ( No.6 )
日時: 2016/03/21 20:40
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: EwVeSaUz)

「今日も美しいな女神よ……」

 午前10時。夜明は差し込む朝日を片腕で凌ぎながら壁に貼ってある大きなポスターを見る。その夜明の顔はいつものあまり表情を変えない顔とは思えないぐらい神聖なものを見る目をしていた。
 そのポスターの大きさおよそ、縦3メートル・横2メートル。ポスターにある人物は清楚な雰囲気を持った美女だった。この人物はアイドルではない。というよりも夜明はアイドルの存在をあまり知らない。この美女を夜明は「女神」と呼んで慕う。
 なぜなら——……。

「入るぜ社長」
「おっ、我が部下」

 トントンと社長室の部屋をノックして入ってくるのは眠たそうに欠伸をする虎功刀。その脇には、辞書並みに分厚い書類が抱えられてあった。
 理由は明白。以前、仕事で彼の上司である月雲が周囲の建物に被害を出したために始末書を夜明に提出するためだった。
 ちなみに月雲は動くタイプの仕事はこなすが、始末書をはじめとする仕事は一切しない。理由は「面倒くさい」だからだ。

「ったく、今頃隊長は夢の中だろうぜ。健気な部下は徹夜で2人分の始末書ですよっと」
「ご苦労だったな虎功刀よ……。さっき依頼のお礼として届いた『東京鳩サブレ』食べる?」
「やったね。ちょうど小腹が空いてたところだ」

 机の引き出しからサブレが入っている箱を取り出すと、それを虎功刀に渡す。彼は嬉しそうに半開きだった目を開け、爛々とした様子で包み紙を破いていく。
 そして1つ1つ綺麗に包装されているサブレの袋を開け、

「甘いモン食うの久しぶりだなぁ」

 そう呟き一口頬張った、はずだった。
——ドォォォォォン!!
 大きな破壊音、いや、部屋のドアが蹴破られる音だった。それと同時に虎功刀のサブレが姿を消す。いや、彼が持っていたサブレだけではない。箱に残り9個ぐらい入っていたサブレが姿を消したのだ。

「う〜ん。やっぱりお土産のお菓子は美味しいね」
「た、隊長! それ社長が俺に差し出したお菓子!? アンダースタン!?」
(流石月雲、食べ物の気配がしたら見境なしだな)
「社長、アンタまさか狙ってやったんじゃないだろうな!?」

 ボリボリと全ての努力を水の泡にするような月雲の行動に虎功刀は絶望した。そして、彼の胸ぐらをブンブン振る。だがもうサブレは帰ってこないのだ。
 夜明は予想内過ぎる彼の行動に感心すらしていた。だが、虎功刀は堪忍袋の緒が切れたのか、爆発ような勢いで月雲に攻寄った。

「この際だから言わせてもらうけどなぁ! アンタいっつも書類を俺に任せて好きなことばっかりやりやがって! こっちの苦労を少しは知ってくれよ!」
「俺、書類は向いてないんだよね〜。あ、さっき飛び蹴り食いしたことは謝るよゴメンネ」
「反省している気が全然感じられないんだが」

 月雲は物凄い剣幕の虎功刀に反していつものニコニコ笑顔を貫いている。

「どうどう。落ち着いてお二人さん。確か冷蔵庫にシソとチーズがあったからそれを串刺しにして食べよう」
「そういう問題じゃねえ!」
「余程サブレが食べたかったようだな」

 ちなみに虎功刀が怒っているのは月雲の行動が積みに重なって今に至ることである。決してサブレだけの問題ではないのだ。
 どうしようかと夜明は薬を飲んでいると、机に設置されている電話が大きくなった。職業柄、喧嘩していても仕事の電話が鳴ると静かになる2人。
 夜明は慣れた様子で電話に出る。

「はい、こちら要人結社。……はい、はい。……え? それこそ警察の仕事じゃあ。こっちは警察や国でもどうしようもない時の最終手段として……。え? 色と形と柄がバレたら国家レベルで死ぬ? ですけどね……ん? 報酬は弾む、じゃあその依頼請け負わせて頂きます。はい、じゃあ依頼金は指定口座の中に。じゃあ失礼します」

 ガチャン。と夜明は電話を切る。
 虎功刀は先ほどの喧嘩を放棄し、夜明の方を見る。

「仕事か?」
「そう。国家レベルで死ぬ奴だって」
「え、何々? テロ?」

 楽しそうに月雲は夜明に近寄る。夜明は静かに首を振る。

「いや、下着泥棒」