複雑・ファジー小説
- Re: 名前のない怪物【闘獄篇】 ( No.67 )
- 日時: 2016/07/23 19:10
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: kkPVc8iM)
「……結廻が」
「……嗚呼、すまねぇ社長……っ」
「僕の判断の誤りです。すみません!」
夜明と月雲が闘技場に辿り着く。しかし、其処にはもはや人間はだれ一人いない。あったのは、虎功刀たちが戦った形跡ともいえる、残骸や破壊されたコンクリートと、何があったのかと遠目から見に来る野次馬たちだった。
彼女を発見した虎功刀と藻琴はすぐさま頭を下げる。夜明はそんな2人を見下ろす。
「……いや、今回のことはわたしにも多分責任があるしね。こんな悪質極まりないオークションみたいなところに珍しい物品放り込むのが間違ってた」
「それと、夜明さん」
藻琴は膝を地につける。そして、背負っていた人物を下した。其の人物は見た目40代後半の男性で黒ぶちの眼鏡を掛けている温厚そうな人物だ。
月雲は乱雑に書類をポケットから取り出すと、男性と交互に見る。
「あれ? その人って」
「はい。本物の柏木さんです。結廻さんの言葉通り、管理室に行ったらロッカーの中で監禁されてました。真面にご飯も食べてないようで……」
『私もあの後いろいろ調べてみたけどやっぱり、本物の柏木さんが神崎っていうやつに全部奪われたみたいね。武力を行使して平和だった健全な闘技場を不穏で最悪な闘技場に塗り替えてしまったようよ』
無線機から華南の声が届く。納得したように夜明は蛻の殻となった闘技場を見つめた。
だが対照的に、月雲はキラキラとした表情を浮かべている。
「じゃあさっさと神崎ってやつをぶっ倒せばいいんだよね? 早く行こうよ」
「恐ろしいほどの戦闘脳だな御前さん……」
「結廻さんもついでに助けないといけませんよ」
「ついでにってなぁ……」
月雲を恐ろしいようなものを見るような目で見つめる夜明。それに油を注ぐような発言をした藻琴に虎功刀は酷く大きなため息をついた。
『場所ならもうわかってるわよ。こっから南東300メートル先にある潰れた簡易宿泊場。そこに神崎も……結廻ちゃんもいるわ』
「さっすが華南。仕事早いネ〜」
「じゃあ、私と月雲と虎功刀は其処に向かう。藻琴は柏木さんを支給病院まで運んで」
「わかりました」
二つ返事で藻琴は頷くと、柏木を抱えて病院へと走っていった。月雲は楽しそうに腕を伸ばしてストレッチをする。
「ん〜。漸く真面な戦いができそうだ」
「だーかーらー。遊びじゃねぇって言ってるだろ? 隊長」
「ねぇ夜明? 其れ新しい狙撃銃?」
夜明が組み立てている狙撃銃を見て、月雲は首を傾げた。虎功刀は「ねえ!? 人の話聞こうよ!」と叫んでいたがマイペースな彼にとっては心底どうでもいいことだった。
夜明は横目で月雲を見ながら頷いた。
「じっさまに改良頼んでたんだよ。重量は結構あるけどその代わりに爆発的な威力と長い距離を撃ち抜ける……らしい」
ガシャコンッと、鈍く重い音を立てる狙撃銃——バレットバレッド。
夜明の身長を軽く超えるその狙撃銃に虎功刀は思わず顔を青ざめていた。
「……うちの社長がどんどん凶悪になってく……」
「さ、早く行くよ」
そう言って夜明は狙撃銃を背負うと、素早く駆け出していく。それに月雲と虎功刀も続いた。