複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物【闘獄篇】 ( No.69 )
日時: 2016/08/01 19:06
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: kkPVc8iM)

(……まさか、こんなに人が集まるなんて。……いえ、よく見れば異星人もいるわねぇ……)

 1時間もしないうちに結廻はオークションの関係者に人形のように着せ替えられ、小奇麗になっていた。
 勿論、逃げださないように正方形の檻の中、首には頑丈な鎖が付けられている。彼女自身は移動できない。
 いつの間にか気絶していた結廻は目を開けると其処はピアノの発表会でもやるような会場。先程の古ぼけたホールとは思えなかった。
 目の前に広がるのは好奇の目で自分を見つける客たち。こっち、この人間や異星人たちも裏の人間だろう。

(……あの日の事、嫌でも思い出すわぁ……)














「嫌ぁぁっ!! 早く出してぇっ!! 助けて、助けて!!」
「売り物は黙ってろ!!」

 あの日、私は暴れていた。売られたくなくて。売られたらきっとこの先未来も自由も永遠に訪れないだろう。
 自分の力を使いきれない私は無力で無価値な人間。奴らにあるのは私に流れている【麗弧】の血だけだ。
 暴れるたびに殴られる。顔が傷つかないように腹や背中を。何とも陰湿な人間なのだろう。
 このときの私は何も信じられなかった。異星人も、人間も。……挙句の果てにはいまだに助けに来てくれない兄も。

——……けど、けど……。

















「結廻。絶望したかい? 君の上司が僕を絶望のどん底に突き落としてしまったから君はこんな目に合い、自由を失う。憎いだろう? 怪物が」

……けど。
 あの人は、いや、みんなは……。
 
 結廻の表情に不敵な笑みが浮かぶ。

「何言ってるのかしらぁ? こんなの絶望でも何でもないわよぉ。……確かに、一瞬戸惑っちゃったけど、少し思い出してみれば大したことなかったわぁ。だって……」
「調子に乗ってんじゃねぇよ!!」

 結廻の言葉を最後まで聞かずに神崎はステージの真ん中だというのに彼女の頬を思い切り殴った。結廻の頬が切れて、一筋の血が流れ出る。
 周囲からは「何だ?」「商品だろ?」という小さいことが聞こえてくるが神崎はお構いなしだ。
 肩で息をすると、神崎は司会者からマイクを奪い取った。

『それではみなさん! 少し時間を早めましてこれからオークションを始めたいと思います!! 先に登場するのは先程から此処にいるあの絶滅戦闘民族の【麗弧】! さあ、買いたい金額を……」

 その瞬間だった。
 大きな爆発音とともに、神崎の真正面の壁が盛大に破壊された。破壊されただけではない。長く大きい弾が不規則に飛び交い、辺りを破壊していく。

「何だ!? 建物が壊れていく!」
「に、逃げろ——っ!!」

 ガラガラ、と瓦礫が音を立てながら崩れていく。弾の所為で辺りが煙で立ち込めていた。白い煙から、3つの白い影が現れる。
 その姿を見て思わず結廻は顔を綻ばせた。

「社長……っ! みんな……!」

 漸く、煙が消えかけたころ、影の姿が見えるようになった。その影は誰もが知っている人物——夜明だった。
 そして、その真横に月雲と虎功刀も立っていた。

「へ〜。なんかにぎやかだね。祭りかな?」
「にぎやかなのは間違いねぇが……」

 ニコニコと嬉しそうに笑う月雲に虎功刀は辺りを見渡しながら、最後に夜明を横目で見た。
 夜明は口橋を上げると、バレットバレッドを肩に担いだ。

「嗚呼。祭りだね」

 神崎が冷や汗をかいて半歩下がる。その汗の量は尋常ではない。
 そして夜明は続けて言うのだ。

「——祭りは祭りでも……血祭りだ」