複雑・ファジー小説
- Re: 名前のない怪物【闘獄篇】 ( No.72 )
- 日時: 2016/08/24 18:59
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: AbL0kmNG)
(……夜明さんたちうまくやってるかな)
行く手を阻むように視界を遮る木々を上手く避けながら藻琴は静かに考える。
すると、背負っていた柏木が小さく咳き込んだ。それに気が付いた藻琴は動きを止める。
「……柏木さん! よかった、見た目ほど重症じゃないみたいですね」
「き、君は要人結社の……?」
「はい。でももう大丈夫です。他のメンバーが処理に入ってます」
「早く……戻らないと……危ない……っ」
「どういうことですか?」
苦しそうに弱弱しく呼吸をする柏木。話すのも漸くのようだ。藻琴は少しでも楽にさせてやろうと背中から降ろして地面に寝かせる。
だが柏木は戻ろうとしているのか立ち上がろうと踏ん張っていた。それを藻琴が制止する。
「起きないでください。幾ら意識があると言っても今のあなたは衰弱しきっています。此のまま病院に行きましょう」
「だ、ダメだ……。幾ら要人結社とて、あの銀狼相手では荷が重すぎる……!」
(……銀狼!)
其の言葉に藻琴は思わず目を見開く。一目しか見ていないが、確かにあの黄金の目をした男の威圧感はそこら辺の戦闘員の比ではなかった。あれは、幾千もの戦場を掻い潜ってきた猛者であろう。
しかし、藻琴はどうしても絶望という感情が頭に思い浮かばなかった。そして、再び柏木を背負うと素早く移動する。
「な、何を!? 急いで仲間を……」
「必要ありません。何故なら、みんなは……社長(あの人)は絶対に負けないから」
——……負け? そりゃああるよ。生きている限り勝ち負けの繰り返し。
——負けたら死ぬって言われたら? そりゃあ……負けないよ。
(……あの時、あの人はこう言ったんだ。だから。だから……)
10
「おいおいお前さんよ……。まーだ月雲の戯れの方が可愛げあった……わっ!!」
流れるような動作で夜明は左手にまだ生き残っているバレットバレッドを銀狼に向けて乱射する。だが、銀狼は避けようともせずに直線的に此方へ向かってゆく。
銃弾が体を抉ろうとお構いなしだ。極め付けなのが、痛みを感じていないのか銀狼の顔は何時ものように無表情だった。
「…………」
銀狼の狂気の様な足の攻撃——踵落としが夜明の左手のバレットバレッドに直撃する。その瞬間、バレットバレッドは粉々に粉砕されてしまう。
バレットバレッドの強度は炭素と同等。かなりの強度を誇るはずの武器が経った一撃で粉砕されたのだ。
夜明は顔を真っ青にさせた。
「テッ、テメこの野郎! 作ってまだ1日も経ってないのに壊しやがって! じっさまにドつきまわされるわ!!」