複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物 ( No.83 )
日時: 2016/09/05 20:32
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: t.wI8xY5)

「こんっの……糞ババア!!」
「ハイハイ、これに懲りたら夜遊び何てすんじゃないわよ〜」

 時刻は深夜近く。丁度研究に没頭していた華南は小腹が空いたため、近くのコンビニでおにぎりなどの軽食を購入していた。
 帰る道中、近くのゲームセンターに未成年の少年1人が屯しているのを発見した。気紛れ程度に少年を諫めると思春期道中の彼は勿論の如く反抗してきた。
 だが、華南は年上だ。特に起こった様子も見せずに軽く脅したら顔を真っ青にして捨て台詞を吐いて帰って行った。

「……全く、今直ぐ私が通報すれば未成年でも懲役の対象になるなんてあるわけないじゃない。それにしても……あーあ。私も柄でもないことしたなぁ」

 華南はため息をつくとその場から立ち去ろうとする。だが、ふと視界に入ってきたのはよく見覚えのある人物であった。

「バ……バラさん!?」
「何じゃ、小娘か」
















「なーにやってんのよ。いい年してゲームセンターにいるなんて」
「フン! 息抜きという言葉を知らんのか貴様は」
「違和感が仕事してるって言ってんの!」

 其処にいたのは、蛇腹であった。華南はてっきりもう就寝しているのかと思っていたがそうではなかったらしい。
 蛇腹は黒い椅子に座ってどうやら車のハンドルらしきものを握っていた。
 彼女は蛇腹が座っている椅子——基、ゲームに、眉を顰めた。

「これって……グリオカートよね?」
「それ以外何に見える」
「というかバラさんこんなのやるんだ……」
「馬鹿にされたものだな。此処に居座り続けて6時間。おれの席を奪おうとする餓鬼ども50人を37564(みなごろし)にしてやったわ!」
「言葉に気を付けなさいよ爺」

 自慢げに言う蛇腹に華南は氷点下と同等の声が喉から出た。だがそんな彼女のことなど露知らず、蛇腹は再びゲームを始めようとしていた。
 其れを慌てて華南が止める。

「ちょ!? いつまでやる気!?」
「朝までに決まっておろうが。なかなか仕事は抜け出せんからな」
「駄目に決まってるでしょ。店の人にも周りの人にも迷惑だし!」
「そんなもん知らん」

 そう言って蛇腹はチリンと100円玉を入れる。こうなっては言うことを聞かない頑固爺なのだ。それは一番同僚である華南が分かっている。
 かくなる上は——……。

「……じゃあ私が勝ったらすぐに帰ってもらうわよ」
「いいじゃろう!」

 勝気な笑みを浮かべる蛇腹。それと同時に華南ももう1つの席に座り、100円玉を入れる。

「おれはもう扱うキャラクターを決めたからな」
「そう……。どうせゲリオでしょ?」

 そう言って華南は蛇腹のスクリーンを覗き込む。其処にはゲリオシリーズとは全く無関係な……。

「それド○ちゃんでしょ!?」
「そうじゃが」

 蛇腹が選んだキャラは有名な太鼓系音楽ゲームのマスコットキャラだった。まさかの、予想の180度ぐらい斜めの展開に深夜という時間帯を忘れ、思わず華南は叫んだ。

「てっきりゲリオらへんを選ぶかと……」
「おれは生まれてからずっとドンちゃん以外選んだことはない」
「別のマスコットがゲリオカートを支配しに来たわね」
「御託はいらん。さっさとかかってきやがれ」

 そう言われ、華南もキャラクターを選択しようとする。すると、肩に手を置かれた。重みのある手だった。

「? ……誰……って社長!?」
「よう社員共」

 青白い顔をした夜明が無表情で立っていた。そんな夜明を見て蛇腹の顔も一気に青くなる。
 其れを見た夜明はゆっくりと蛇腹の顔を見据えた。

「——……」

——……このとき、華南と蛇腹は夜明が何を言っていたのか全く覚えていない。ただ、全身の細胞が命の危険を察していたという。





因みに華南が選ぼうとしていたのはピー○姫