複雑・ファジー小説

Re: 名前のない怪物【血の楔篇】 ( No.84 )
日時: 2016/09/10 19:52
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: NzSRvas.)

「味が薄いですね」
「…………」

 平日の昼真っ盛り。何時もの様に要人結社内の食堂は呉羽の作るご飯を筆頭に賑わっていた。
 殆どのメンバーが美味しそうに彼女のご飯を食べているのに対し、只1人藻琴はそれを異にするような発言をしていた。
 このことは今に始まったことではない——寧ろ、3日に1回はあるぐらいだ。そんな彼の行動に呉羽は文句を言わないにしろ、怪訝な目でモコとを見ていた。

「……今日【も】ちゃんと調味料や食材の味付けは間違えなかったし……、焼き加減もばっちりな筈だよ……?」
「水分が多かったんじゃないんですか? チャーハンってそういうものですし」
「…………」

 思わず呉羽の額に青筋が走る。藻琴はそんな彼女のことなど露知らず。文句を言いながらもチャーハンを全て平らげると「ご馳走様」と呟いて食堂を出て行った。
 何も言わずに飯を食べていた夜明に虎功刀が耳打ちする。

「ったく……。今日も普通にウマいだろうがよ。最近の若者は好き嫌いが多いねぇ」
「出たよアラサー発言」
「俺は呉羽の料理好きだけどなー」

 無自覚な月雲の発言。何時もならこの月雲の些細な発言で呉羽は顔を赤くしたり、彼の更に料理を追加したりするのだが——……今は悲しそうに下を向いている。
 そして、後方の席に座っていた結廻が話し出す。

「そういえば、藻琴ちゃんって妙に呉羽ちゃんに引っかかるわよねぇ。どうしてかしらぁ」
「……結廻は知らなかったっけか」
「え?」

 オレンジジュースを一気に飲みながら夜明は呟く。何か言いかけた夜明の顔を覗き込む結廻。
 特に夜明が反応しなかったため、月雲や虎功刀の顔を見るが2人も無反応だ。痺れを切らした結廻は夜明の肩を揺さぶる。

「社長! どういうことなのぉ!?」
「それは——……」

 言いかけた瞬間だった。

「呉羽様! 見つけましたよ!!」
「!?」

 ガラスと木製の分厚い食堂の扉が破壊される音が響く。その場にいた全員が驚き後ろを振り返る。
 そこには、防弾チョッキや防弾シールドでガチガチに装備された男たちがいた。リーダーらしき男が前に出て呉羽の名前を呼んだ。

「せ、政察!?」
「如何したの夜明、ついに天皇に謀反を起こしたの?」
「人をテロリスト扱いするな馬鹿」

 過去の名の組織の名を警察。現在の組織名は政察。やることは犯罪者の逮捕、パトロールなど市民の平和のためだが、少し違うのは政府直轄の組織だということ。政府が命令したらどんなことでも出動しなければいけない。
 有能な者も多いが一部には身分を盾に威張り散らす者もいるので評価は半々だ。おまけに、要人結社も名が挙がっているため若干市民から軽蔑されているとかいないとかという話だ。

「ど、どうして……?」
「お父様が御呼びです。呉羽お嬢様。ご帰還を!」

 リーダーの男の呼びかけにたじろぐ呉羽。夜明、月雲、虎功刀は「あちゃー」と同時にため息をつく。
 そして話の展開についていけない結廻は戸惑いながら周りを見る。そして出た言葉は……。

「お父様ァ(パパァ)!?」