複雑・ファジー小説
- Re: 名前のない怪物【血の楔篇】 ( No.88 )
- 日時: 2016/09/17 19:42
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: NzSRvas.)
『社長、今晩は政察(そっち)に泊まられるんですか?』
「うん。ていうか暫く出られない」
夕焼け空が真っ黒に染まる頃。落とし穴に落とされた夜明たち一行はとある部屋に到着していた。
部屋の広さとしてはファミリー用のホテルの一室の言ったところか。ベッドでジャンプして遊ぶ月雲をよそに、夜明は部屋に設置された電話で結社に連絡を図っていた。
丁度出たのは蛇腹で少し驚いたような声音だ。
『……何もされてませんよね?」
「呉羽もいるしまずそういうことはないと思う」
『……なら、いいんですけどね』
蛇腹の背後で時雨が「薬飲んでくださいね!?」と叫んでいる。それを蛇腹が「やかましい!」と一喝した後に再び夜明に静かな声音でいう。
『……3日経っても帰ってこないようでしたら戦闘員たちを呼びます』
「——わかった」
『それと』
「?」
少し間を置き、わざとらしい咳払いをする蛇腹に夜明は思わず眉を顰めた。
耳元でゴニョゴニョと何か言いにくそうだ。だが、蛇腹は言う覚悟を決めたのか、先ほどより小さな声で口を開いた。
『大変忙しい中申し訳にくいのですが……午後から藻琴の小僧も見当たらないのです』
「……藻琴が?」
『バラさん、薬品出して!』
『うっさいわい! わかっとる! ……ということで失礼します。小僧も暫くすれば戻ると思うんで。戻ったら社長の代わりに説教しときますわ』
「ちょ……」
電話の向こうにいる華南の声に蛇腹は彼女を思い切り怒鳴りつける。そして夜明に再び静かな声でそう告げると結構一方的に電話を切られてしまった。彼はおそらくあまり藻琴(このこと)を気にしていないのだろう。
夜明が言い終える前に切られてしまったため、受話器からは「ツーツー」という機械音しか聞こえなくなった。
(……藻琴が何処に行こうとして何処に辿り着くかも大体は見当がついてる。……けど)
夜明は横目で呉羽を見る。呉羽は部屋の中央にあるテーブルの向かいにある細長いソファーに腰掛けていた。
その表情は強張っていて、お世辞にも顔色がいいとは言えない。それを見た夜明は一瞬で答えを導き出す。
(まだ言うときじゃないな。呉羽は器用な方じゃないからこのことを言ってもさらに混乱するだけだ)
「ねぇ。これ何? アルバム?」
「あ?」
今までベッドで遊んでいたと思われた月雲の声が突然前から響いた。彼はいつの間にか呉羽の隣に座っていた。そんな彼に思わず夜明は低い声が出た。
月雲につられる様に夜明も呉羽の元へ向かう。
目の前にあるテーブルには3冊のアルバムの様な冊子が置かれていた。
「……つ、月雲さん、開けなくていいです……っ」
「いーじゃん。どーせばれないヨ」
呉羽の制止も聞かず、月雲は察しの1冊の表紙を開く。
そこには……。
「……これは」